情報・広報・啓発委員会より

第280回日本循環器学会関東甲信越地方会 受賞者一覧(2026年6月13日開催)

受賞演題一覧

第280回日本循環器学会関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題主旨(2026年6月13日開催)

Student Award

悪性リンパ腫の心臓への浸潤形態から生前の心電図異常の機序を考察し得た1剖検例

大野 淳成1)、松山 高明2)、沼尻 祐貴3)、鈴木 洋3)、酒井 広隆4)、小川 高史5)
1) 昭和医科大学 医学部 医学科
2) 昭和医科大学 医学部 法医学講座
3) 昭和医科大学 藤が丘病院 循環器内科
4) 昭和医科大学 藤が丘病院 血液内科
5) 昭和医科大学 藤が丘病院 臨床病理診断科

【背景】
 悪性リンパ腫の心臓浸潤は生前診断が容易ではないことも多い。今回、病理解剖でリンパ腫の心臓浸潤がみられ、その分布形態から生前の心電図異常との関連を推察し得た症例を経験した。

【症例】
 70代後半女性。下腿浮腫と頸部リンパ節腫大を主訴に受診。CTで悪性リンパ腫が疑われ、入院後の心電図では陰性T波やI度房室ブロック、心房細動を認めた。さらに入院14日後には下壁誘導にST上昇がみられ、冠動脈造影を施行したところ、右冠動脈(#1)に高度狭窄を認め、急性心筋梗塞として冠動脈ステント留置を行ったが、術後に心室頻拍・心室細動を発症し死亡した。

【病理解剖像と心電図の関連】
 病理解剖でびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断され、心臓を含む多臓器に浸潤を認めた。心室とともに両心房および洞結節・房室結節内への浸潤を認め(図1矢印)、心房細動やI度房室ブロックを生じる変化として矛盾しなかった。また、ST上昇については心室内には区域性の虚血性心筋壊死の像は目立たなかったが、左右冠動脈支配領域を主体にリンパ腫が広範に占拠性に浸潤しており(図2)、右冠動脈末梢の腫瘍の圧排(図2矢印、図3A)による虚血と相乗してST上昇の機序となった可能性が示唆された。また、リンパ腫の心筋間質への不規則な腫瘍浸潤は腫瘤辺縁では心筋炎の炎症細胞浸潤の様に不規則に心筋間質に分け入るような浸潤を示すため(図3B)、心筋内伝導の不均一性を生じやすく、心室頻拍・細動を生じやすい状況を生じた可能性も考慮された。

【結語】
 リンパ腫の心臓浸潤では多彩な心電図異常を生じることがあり、心臓浸潤の分布および浸潤形態から、生前に認めた心電図異常の機序を推察することができた。

図1.刺激伝導系周囲への浸潤 図1 刺激伝導系周囲への浸潤
図2.両心室面の腫瘍の浸潤 図2 両心室面の腫瘍の浸潤
図3.心室筋内のリンパ腫細胞の浸潤(H&E 染色, Bars=0.5mm)
図3A 心室筋内のリンパ腫細胞の浸潤
図3B 心室筋内のリンパ腫細胞の浸潤

Resident Award

SGLT2阻害薬,GLP-1受容体作動薬,併用療法の心血管腎予後改善効果の比較

浅沼禎1,染谷将太2,渡邊淳之3,工野俊樹4

1日本赤十字社医療センター,
2Westchester Medical Center,
3Mount Sinai Morningside and West, Icahn School of Medicine at Mount Sinai,
4Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School

【背景】
 SGLT2阻害薬(SGLT2i)とGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の単剤での心血管予後改善効果は確立されているが,各単剤療法と併用療法の相対効果は十分に解明されていない.

【方法】
 心血管リスクのある成人患者を対象とし観察期間52週以上の無作為化比較試験(RCT)をネットワークメタ解析し,主要心血管イベント(MACE),心不全,腎複合イベント,全死亡,重大な有害事象を比較した.

【結果】
 72件のRCTを解析した.併用群はSGLT2i単剤比(ハザード比[HR],0.82;95%信頼区間[95%CI],0.71–0.94)およびGLP-1RA単剤比(HR,0.85;95%CI,0.74–0.99)でいずれよりも低いMACEリスクと関係し,心不全,腎複合イベント,全死亡でも最良の効果を示した.併用群は単剤と比較し重大な有害事象リスクを増加させなかった.

【結論】
 心血管リスクのある成人患者において両剤併用療法は心血管腎予後改善の有力な選択肢になりうる.

Clinical Research Award

心房不整脈に対するアミオダロン誘発性甲状腺機能異常の危険因子と臨床的特徴

小林 誠, 蜂須賀 誠人, 平山 浩章, 土井田 祐子, 岡島 周平, 伊藤 紳晃, 藤本 雄飛, 村田 広茂, 相澤 義泰,
淀川 顕司, 浅井 邦也, 岩﨑 雄樹

日本医科大学付属病院 循環器内科

【背景】
 アミオダロン(AMD)は心房不整脈の洞調律維持に有用な抗不整脈薬である一方、高ヨウ素含有と脱ヨウ素酵素阻害により甲状腺機能異常を来しうることが知られている(1)。AMD誘発性甲状腺機能異常は心血管イベントや治療継続性に影響を及ぼす可能性があるが、心房不整脈患者に特化した臨床的特徴や発症関連因子については十分に明らかにされていない。

【目的】
 心房不整脈に対してAMDを投与された患者における、AMD誘発性甲状腺機能異常の発症頻度、臨床的特徴、および発症に関連する因子を明らかにすることを目的とした。

【方法】
 日本医科大学付属病院において、2010年から2025年までに心房不整脈に対してAMDを投与され、甲状腺疾患既往を除外した連続757例(男性483例、70±12歳)を対象に、甲状腺機能異常の発症状況、AMD投与量、および病型別の臨床背景を後方視的に検討した。

【結果】
 AMD誘発性甲状腺機能異常は114例(15%)に認め、投与開始後中央値15か月で発症し、累積発症率は持続的に上昇した。発症群では非発症群と比較してAMDの1日投与量が有意に多かった(100±43 vs. 37±38 mg/日、P<0.001)。病型別には、AMD誘発性甲状腺機能低下症(AIH)が79例(69%)、AMD誘発性甲状腺中毒症(AIT)が35例(31%)であり、AITの内訳は1型(ヨード誘発性甲状腺炎)3例、2型(破壊性甲状腺炎)32例であった。AITはAIHに比べて若年であり(60±11 vs. 72±11歳、P<0.001)、発症までの累積投与量が多かった(111±86 vs. 59±67 g、P<0.001)。

【考察】
 本研究では、心房不整脈患者におけるAMD誘発性甲状腺機能異常は一定の頻度で発症し、その発症にはAMDの1日投与量が関与する事が示された。また、AIHとAITでは発症時期やAMD累積投与量に異なる特徴が認められ、両者の発症機序や患者要因は異なっている可能性が考えられた。AMD投与中は単に甲状腺機能異常の有無を評価するだけでなく、AIHとAITの病型差を意識した経時的評価が重要である。

【結論】
 心房不整脈に対するAMD治療では、甲状腺機能異常が一定の頻度で発症する。AMDの洞調律維持効果を安全に活かすためには、心房不整脈の抑制効果とAMD投与量を意識した投薬管理と、AIH/AITの病型差を踏まえた継続的な甲状腺機能モニタリングが重要である。

(1) Ylli D, Wartofsky L, Burman KD. J Clin Endocrinol Metab. 2021;106(1):226-236.

Case Report Award

ACVRL1新規バリアントによる遺伝性出血性毛細血管拡張症を合併した妊婦に対する周産期の集学的な管理・治療経験

東京大学医学部附属病院 循環器内科 1,ゲノム診療部 2,女性診療科・産科 3,小児科 4
川口 琴子1,八木 宏樹1,秋山 奈々2,利光 正岳3,井上 毅信4,田中 裕之4,石田 純一1,加藤 元博4,武田 憲彦1

【背景】
 遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)は鼻出血が特徴的な所見で、粘膜や内臓血管奇形を伴うことが知られている。HHTは常染色体顕性遺伝形式で、浸透率が高い疾患である。同一の遺伝子変異であっても、その表現形は様々である。本疾患においては妊娠中の母体と胎児両者の管理が重要とされるが、周産期までの適切な管理の報告は少ない。

【症例】
 症例は39歳女性。妊娠9週で妊娠高血圧症候群が疑われ、当院を紹介受診した。妊娠後、鼻出血に伴う貧血の進行と口腔内粘膜に多発する毛細血管拡張所見を認め、非侵襲的な画像検査にて肝臓・肺内に多発動静脈瘻(AVM)(図1)が指摘され、HHTが疑われた。妊娠28週時にターゲットシークエンス解析を実施し、ACVRL1(c.1345C>G, p.Pro449Ala)の新規バリアントが検出され、HHT(II型)が示唆された。新規バリアントであり、in silico機能解析や家系解析(図2)の結果から、ACMGガイドラインに基づいてlikely pathogenicと判断した。妊娠33週にHELLP症候群への進行が疑われ、緊急帝王切開で女児(1775g, Apgarスコア9点)を出産した。出産直後に貧血と肝AVMに伴う高拍出性心不全を併発し、利尿剤・降圧薬による心不全加療を要したが、速やかに症状は改善を認めた。女児は、低出生体重児ではあるものの全身状態は安定しており、出生後に施行した各種検査では明らかな臓器内動静脈瘻は認めなかった。

【考察】
 本疾患の周産期においては、母体の体血流が50%程度増加するため、肝臓AVMなどによる高拍出性心不全の発症・増悪が生じうることを念頭にした適切な循環管理が重要である(1)。妊娠中の限られた画像検査の中でも心機能や全身のAVMの所在を把握しておくことは、心不全増悪時に速やかに対応する上でも肝要である。また小児期発症のHHTは珍しいものの、肺AVMが早期に発症する症例もあり、出生直後の呼吸障害に留意しつつ出生前の血管奇形の把握も有効である(2)。小児期の遺伝学的検査については未成年かつ無症候(表現型がない)である場合は慎重な判断が求められる。本症例においてはゲノム診療部や小児科とも連携し、倫理的・法的・社会的側面(ELSI)を十分に考慮した上で、表現型が出現していない新生児期の現時点では遺伝学的検査を施行しないこととしたが、女児を発症リスク者として5年ごとの肺AVMのフォローを継続する方針とした(3)。以上、本症例は周産期までの管理を他診療科と連携し母子共に安全に退院まで導いた症例であるとともに、家系解析の重要性や児への遺伝学的検査の適応を検討したケースである。本疾患のような心血管合併症を伴う単一遺伝性疾患の周産期の母子管理や遺伝学的検査の適応検討は、循環器内科領域においても今後重要になると考え、症例報告とした。

【参考文献】
1. Berthelot E et al. Presse Med. 2015;44:362–365.
2. Daglar HK, et al. J Clin Ultrasound. 2024;52:658–663.
3. Faughnan ME et al. International HHT Guidelines. Ann Intern Med. 2020.


【図】
Case Report Award 図

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