第279回関東甲信越地方会 受賞者一覧(2026年2月14日開催)
第279回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2026年2月14日開催)
Student Award
寛解期の婦人科癌患者における静脈血栓塞栓症の再発率とリスク因子:TULIPEレジストリを用いた後方視的解析
岡村結1,2、石塚祐紀2,3、内藤博之4、村田桃子5、町野智子6、石津智子6、田尻和子2,7
1) 筑波大学 医学群 医学類
2) 国立がん研究センター東病院 循環器科
3) 東京都立墨東病院 循環器内科
4) 日高病院 臨床検査室
5) 国立がん研究センター東病院 臨床検査部
6) 筑波大学医学医療系 循環器内科
7) 筑波大学グローバル教育院 ライフイノベーション学位プログラム
【背景】
静脈血栓塞栓症(VTE)はがん患者に高頻度に認められ、特に婦人科癌では併発率が高い1。診断直後や治療中のVTEリスクは高いことが知られているが、寛解期における再発は十分に検討されていない。婦人科癌サバイバーの増加に伴い、寛解期におけるVTE管理の重要性が高まっている
【方法】
TULIPEレジストリより、がん寛解以前に深部静脈血栓症(DVT)を発症した寛解期婦人科癌患者163例(最終がん治療から6か月以上経過し、がん増悪なし)を後方視的に解析した。主要アウトカムはVTE再発とし、死亡およびがん再発を競合リスクとしたFine–Grayモデルを用いて部分分布ハザード比(sHR)を算出した。
【結果】
中央値5.5年の追跡期間中、25例(15%)でVTE再発を認めた(図1)。単変量解析では年齢が再発リスクと有意に関連した(sHR=1.04、95%信頼区間[CI]=1.00-1.07、p=0.036)が、高血圧や糖尿病などの併存疾患、DVT既往、がん治療との関連は認めなかった。多変量解析においても年齢は独立した関連を示した(adjusted
sHR=1.04、95% CI=1.00-1.08、p=0.030、表1)。
【考察】
婦人科癌の寛解期においてもVTE再発率の上昇が認められ、年齢が独立した再発リスク因子として関連していた。活動性婦人科癌を含む長期的心血管リスク研究では、強度の高いがん治療や活動性がんの影響により若年患者でリスクが高いと報告されているが2、本研究では寛解期において高齢患者で再発リスクが高まることが示唆された。
【結論】
婦人科癌の高齢患者では、寛解後もVTE再発について慎重なモニタリングが必要である。
- Ohashi Y, Ikeda M, Kunitoh H, et al. Jpn J Clin Oncol. 2020;50(11):1346.
- Ording AG, Nielsen PB, Skjøth F, et al. Int J Cardiol. 2023;390:131271.
Resident Award
二尖弁合併大動脈弁狭窄症に対し経中隔による順行性弁通しを採用してTAVRを成功させた一例
鈴木暢英1、橋詰直人2、依田英貢2、由井寿典2、中村千枝2、中嶋博幸2、浦澤延幸2、臼井達也2、戸塚信之2、宮下裕介2、吉岡二郎2、内藤一樹3、高野智弘3、松村祐3、河野哲也3
日本赤十字社長野赤十字病院 1臨床研修医、2循環器内科、3心臓血管外科
【原稿】
経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)では、大動脈弁複合体の形態やアクセスルートなど多様な患者背景に応じた精緻な戦略立案が不可欠であり、しばしば未経験の状況に対して創意工夫を伴う対応が求められる。
我々は90歳代男性の先天性二尖弁に合併した大動脈弁狭窄症に対し、TAVR(経大腿, Evolut™ Pro FX
34mm)を施行した。ガイドワイヤーの逆行性弁通しが困難を極めたため、大腿静脈経由で右心房に到達し、心房中隔穿刺を介して左心房―左心室―上行大動脈へワイヤーを導入した後、snare
catheterにより大腿動脈へのpull-throughを行った。以降は通常手技に準じて人工弁を留置した。
本症例は、精緻な術前計画を踏まえつつ、心房中隔穿刺やpull-throughといった他の心血管インターベンションで培われた技術を用いた術中判断により、弁通し困難な二尖弁合併ASに対してTAVRを完結することができた一例である。心臓血管領域の幅広い知識と手技のみならず、TAVRチーム内で患者主体の議論をまとめられる良好な関係が構築されていたことが重要だったと考えられる。
Clinical Research Award
遠隔期のペースメーカー必要性予測における経皮的中隔心筋焼灼術後早期の造影CTの有用性
河合冬星, 北村光信, 西郡卓, 泉佑樹, 髙見澤格, 七里守, 井口信雄, 磯部光章, 高山守正
榊原記念病院 循環器内科
背景:経皮的中隔心筋エタノール焼灼術(PTSMA)後にみられる完全房室ブロック (CAVB)の出現率は39.6%、恒久的ペースメーカ植込み率は10.5%と報告されている。1しかし、PTSMA後にみられるCAVBでは数分~2週間の遷延ののちに、房室伝導が回復しペースメーカーが不要と考えられる症例をしばしば経験する。過去の文献で、エタノール焼灼領域と刺激伝導系との位置関係を、心臓造影CTを用いて画像診断学的に検討した報告はない。
目的:造影CTを用いてPTSMA術後早期に焼灼領域の評価を行う。PTSMA焼灼領域と持続性CAVBとの関連性を調査する。
方法:当院において、2015年〜2024年に流出路閉塞型HOCMに対してPTSMAを施行し、術後2週間以内に造影CTを撮影した202例のうち、左室中部閉塞のみの4例と術前より右室ペーシングであった6例は除外し、192例を評価対象とした。造影CTは造影剤注入90秒後に撮像し、焼灼領域は心筋の造影欠損領域として評価した。主要エンドポイントは持続性CAVB=治療後30日(初回外来)で持続するCAVBとした。
結果:手技開始〜退院までに59例(31%)にCAVBを認めた、そのうち9例が治療30日後もCAVBが持続しており、50例は回復していた。133例はCAVBを認めなかった。中隔基部突出部が焼灼されている場合の持続性CAVBの相対リスクは2.24 [0.48-10.5]であり、膜性中隔近接部が焼灼されている場合の持続性CAVBの相対リスクは9.64 [2.54-36.6]であった。
考察:持続性CAVBを呈した9例のうち、6例は膜性中隔近接部の焼灼が得られていた。2例に関しては術前から完全左脚ブロックであり、そこに右脚走行部焼灼が加わっていた。1例に関してはより末梢レベルで広範囲な焼灼が得られていた。
結論:膜性中隔近接部領域を含むエタノール焼灼は持続性CAVBと有意に関連していた。造影CTによる焼灼部位評価は、PTSMA後の伝導障害メカニズムの解明につながる可能性が示された。
- 1.
- Batzner et al. J Am Coll Cardiol 2018 Dex 18;72(24):3087-3094
中隔基部突出部
右脚走行部
膜様中隔近接部Case Report Award
保存的加療により改善しえた心外膜アブレーション後に発症した滲出性収縮性心膜炎の一例
小林 大輝1), 本田 幸弥1), 松岡 勇樹1), 佐藤 希美1), 小松雄樹1),石津智子1)
1) 筑波大学附属病院 循環器内科
【症例】
Brugada症候群でS-ICD留置後の20代男性。心室細動に対する心外膜アブレーションを施行し、心膜炎予防として心膜腔内へのステロイド散布とコルヒチン、アセトアミノフェンを開始した【1】。
しかし、術翌日より急性心膜炎を発症し、アセトアミノフェンをアスピリンへ変更したが改善に乏しく、アスピリンをイブプロフェン600㎎へ変更後に症状とCRP値の改善を確認し、術後8日目に退院となった(図1)。
退院7日後に、下腿浮腫や腹部膨満感など右心不全症状が出現し、高度な心膜液貯留、CRP値の再上昇を認め再入院となった。
心膜ドレナージにより心拍出量は増加したが、両心室圧波形でdip-and-plateau並びに心室間相互作用が顕在化し、拡張期心腔内圧の等圧化を認め、経胸壁心エコー検査で心膜癒着サインやrespiratory septal shiftを認めたことから滲出性収縮性心膜炎(ECP)と診断した(図2)【2】。
治療抵抗性でありステロイド追加も検討されたが、イブプロフェンを1800㎎に増量したところ心膜炎は速やかに改善し、再増悪がないことを確認し、術後24日目に退院した(図1)【3】。
以降、薬剤減量後も再発なく経過した。
【考察】
ECPは炎症などにより肥厚した心膜の間に心膜液が貯留し、心膜穿刺後に収縮性心膜炎様の血行動態が顕在化する病態である。
心外膜アブレーション後の合併症として急性心膜炎は比較的高頻度であるが、収縮性心膜炎にまで進展する症例は極めて稀であり、過去報告例では心膜剥離術を要している【4】【5】。
欧米のガイドラインでは心膜炎に対し高容量NSAIDsの投与が推奨されている。本症例のように炎症所見が強い場合には、高容量NSAIDsによる保存的治療が奏功しうるとされ【2】、心膜炎治療中に心膜液増加と右心不全徴候を認めた場合にはECPを鑑別に挙げ、速やかな血行動態評価と治療強化を行うことが良好な転帰につながると考えられた。
PCISに伴う心膜炎は遷延・再発リスクがあり、慎重なマネジメントが重要である【6】。
【参考文献】
- 【1】
- Cronin EM, Bogun FM, et al. 2019 HRS/EHRA/APHRS/LAHRS expert consensus statement on catheter ablation of ventricular arrhythmias. J Interv Card Electrophysiol. 2020 Oct;59(1):145-298.
- 【2】
- Imazio M, Hoit BD. Post-cardiac injury syndromes. An emerging cause of pericardial diseases. Int J Cardiol. 2013 Sep;168(2):648-52.
- 【3】
- Jeanette S, Valentino C, et al.2025 ESC Guidelines for the management of myocarditis and pericarditis. Eur Heart J. 2025 Oct 22;46(40):3952-4041.
- 【4】
- Javaheri A, Glassberg HL, et al. Constrictive pericarditis presenting as a late complication of epicardial ventricular tachycardia ablation. Circ Heart Fail. 2012 Mar 1;5(2):e22-3.
- 【5】
- Oesterle A, Singh A, et al. Late presentation of constrictive pericarditis after limited epicardial ablation for inappropriate sinus tachycardia. HeartRhythm Case Rep 2016 Jul 16;2(5):441-445.
- 【6】
- Platek NM, Persits I, et al. Post-Cardiac Injury Syndrome: A Paradigm Shift in Diagnosis and Management. JACC Adv. 2025 Oct;4(10 Pt 2):102166. doi: 10.1016/j.jacadv.2025.102166.
図1:治療経過




