情報・広報・啓発委員会より

第273回関東甲信越地方会 受賞者一覧(2024年9月7日開催)

受賞演題一覧

第273回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2024年9月7日開催)

Student Award

高血圧患者における慢性腎臓病の合併の有無と心電図で評価した左室肥大と心血管イベントの関連

高橋 慧1), 甲谷 友幸2),星出 聡2),苅尾 七臣2)
1)自治医科大学医学部医学科6年生
2)自治医科大学内科学講座循環器内科学

【背景】
高血圧患者の左室肥大 (LVH)と予後の関係は先行研究で示されている。治療抵抗性高血圧患者の心エコーのLVHの予測と心血管イベント発生予測は心電図指標によって異なる。しかし、慢性腎臓病 (CKD)の有無による心電図で評価したLVHと予後の関係は明らかにされていない。

【方法】
J-HOP研究に登録された当院通院中の高血圧患者697例を対象とした。心電図指標はSokolow-Lyon voltage (SL基準)とCornell Product (CP基準)を用いた。心エコーのLVHはガイドラインに基づき、左室重量係数(LVMI) 男性 > 115 g/m2, 女性 > 95 g/m2とした。エンドポイントは心血管死亡、突然死、脳卒中、虚血性心疾患 (心筋梗塞、狭心症)、心不全、大動脈解離とした。

【結果】
SL基準のエコーLVHの予測能はCKDありで感度23%/特異度90%、なしで感度22%/特異度85%であった。CP基準でCKDありで感度54%/特異度84%、なしで感度40%/特異度83%であった。SL基準のイベント発生はCKDありで補正後ハザード比 3.08 (95%CI 1.28 – 7.41)、なしで補正後ハザード比 1.72 (95%CI 0.91 – 3.26)、CP基準はCKDありで補正後ハザード比 0.90 (95%CI 0.37 – 2.21)、なしで補正後ハザード比 1.10 (95%CI 0.57 – 2.12)、RV5/V6基準はCKDありで補正後ハザード比 2.03 (95%CI 0.82 – 5.02)、なしで補正後ハザード比 0.96 (95%CI 0.52 – 1.75)であった。SL基準のイベント発生はCKDありでLog rank値10.886、なしでLog rank値6.726であった(図)

【結論】
SL基準は左室肥大の診断に鋭敏ではないが、CKD合併高血圧患者の予後予測に有用であった。

(図)

Resident Award

末梢性肺動脈狭窄症10例の診断・治療経過についての後方視的検討

奥野 修平、森下 圭、波多野 将、皆月 隼、新保 麻衣、八木 宏樹、齊藤 暁人、廣瀬 和俊、石井 聡、石田 純一、武田 憲彦
東京大学医学部附属病院 循環器内科

【背景・目的】
末梢性肺動脈狭窄症(PPAS)は肺高血圧症(PH)の一つで、末梢肺動脈の中膜肥厚を主体とする血管性狭窄/閉塞を引き起こす希少疾患である。特に特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)や慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)とは治療が異なることがあり、鑑別が重要である。しかし、PPASには明記された診断基準が存在せず診断/鑑別に苦慮する。そのため、当院でPPASと診断した症例の実際を検証した。

【方法】
2009年3月から2023年12月に当院でPPASと診断された10例について、診断/治療等を診療録より後方視的に検討した。診断基準は図2のアルゴリズムを用いた。

【結果】
10例中8例は当初他疾患が病因のPHと診断されており(IPAH 4例、CTEPH 4例)、PH発症からPPAS診断まで中央値52ヶ月(0-300ヶ月)を要した。画像診断には肺換気血流シンチグラム(RI)、肺動脈造影(PAG)、CTが使用された。初回診断時のモダリティが判明した8例ではRI, PAGのいずれかのみが施行されていた。RIのみ施行の4例では3例がCTEPH・1例がIPAHの診断、PAGのみ施行の4例では2例がIPAH・2例がPPASの診断とされていた。PPASの確定診断には全例PAGが用いられた。また、RNF213遺伝子検査を7例で提出し4例で多型陽性(3例結果未着)であった。治療に関しては、全例で薬物治療を受けており4例でステント治療を施行された。1例のステント治療後を含む計4例で肺移植登録され、現在待機中である。

【考察】
多くの症例で初回にPPASと診断されず、早期診断/治療が困難なため一定症例が肺移植登録に至る実情が明らかとなった。本疾患の診断が困難な理由は次の2点が考えられる。

  • 病理像がGroup1に近い一方、血流分布がGroup4に近いこと
  • 希少で認知度が低く、鑑別に上がりづらいこと

PPASはIPAH・CTEPHと治療が異なることがあり、PHの原因精査時には常に念頭に置く必要がある。RI・PAGいずれか一方のみでは診断能が十分とは言えず、RI・PAG両者に遺伝子検査を併せて適切に診断を下すことが肝要である。


表1. 当院PPAS症例の患者背景(n=10)


図2. 当院のPPAS診断アルゴリズム

Clinical Research Award

His束ペーシングとの比較からみる当院における至適中隔ペーシング (Optimal Septal Pacing)の有用性

竹内峻、内山貴史、青山里恵、須藤洋尚、林智彦、丘慎清、飯髙一信、岩田曜、石脇光、沖野晋一、福澤茂
船橋市立医療センター 心臓血管センター 循環器内科

【背景】
徐脈性不整脈に対するペースメーカー術式は従来、右室心尖部ペーシングが施行されてきたが、paced QRS幅が140ms以上では、非同期的収縮からEF低下をきたすペースメーカー誘発性心筋症の発生率が有意に増加することが示された1)。そのため、現在は生理的刺激伝導となるHis束ペーシング(HBP)、左脚領域ペーシング(LBBAP)といった刺激伝導系ペーシングの有用性が示され注目されている2,3)。しかし、最も生理的な刺激伝導となるHBPは高い手技難易度や遠隔期の閾値上昇が問題となる。LBBAPも中隔穿孔が問題となるほか、左脚を捕捉できる明確な同定法がなく左脚を補足するまでスクリューインを繰り返す必要がある。
そこで当院では簡便な指標でpaced QRS幅がnarrowとなるターゲット領域を同定する、至適中隔ペーシング (OSP, Optimal Septal Pacing)を施行している。三尖弁から1-1.5cmほど心尖部側へリードを進め、ペースマップを行う。この時paced QRS幅が150ms未満かつⅡ誘導でR波が陽性、Ⅲ誘導で二相性となる部位を同定しスクリューインを行う。この術式では左室中隔でも十分にpaced QRS幅がnarrowとなるほか、深くスクリューインすることで左脚捕捉も可能となる。本研究はOSPの有用性をHBPとの比較から検討した。

【方法】
当施設で施行し、主要評価項目 (paced QRS幅、閾値)が評価できるHBP 63例 (2018年4月〜2021年12月)、OSP 72例 (2021年9月〜2023年1月)を後方視的に解析した。

【結果】
Paced QRS幅 (図A)は両群で同等 (108.2±17.9ms vs 109.9±18.4ms; p=0.572)であり、閾値 (図B)はOSPが有意に低かった [0.75 (0.50-1.56)V/0.97ms vs 0.50 (0.50-0.75)V/0.41ms; p<0.001]。同一術者の手術時間 (図C)を比較すると両群に差を認めなかったが [50 (42-60)min vs 52 (36-58)min; p=0.860]、外れ値はOSPの方が少なかった。18ヶ月間の閾値の経時的変化 (図D-1,D-2)はOSPの方が有意に低かった (p<0.001)。また本研究対象に心室中隔穿孔の合併症は認めていない。

【考察】
OSPはHBPに劣らないpaced QRS幅であり、同等の心機能予後が見込める。OSPは閾値も低く18ヶ月間のfollow-up期間でも有意に閾値が低いことから、電池消耗が抑えられる可能性がある。手術時間は両群で同等であったが、外れ値がOSPで少ないことから安定した手技と考えられる。

【結論】
OSPはHBPに比して優れたペーシング特性を備えた術式である。

【参考文献】
1) Kim JH, Kang KW, Chin JY, Kim TS, Park JH, Choi YJ. Major determinant of the occurrence of pacing-induced cardiomyopathy in complete atrioventricular block: A multicentre, retrospective analysis over a 15-year period in South Korea. BMJ Open. 2018;8(2). doi:10.1136/bmjopen-2017-019048
2) Abdelrahman M, Subzposh FA, Beer D, et al. Clinical Outcomes of His Bundle Pacing Compared to Right Ventricular Pacing. J Am Coll Cardiol. 2018;71(20):2319-2330. doi:10.1016/j.jacc.2018.02.048
3) Kono H, Kuramitsu S, Fukunaga M, et al. Outcomes of left bundle branch area pacing compared to His bundle pacing and right ventricular apical pacing in Japanese patients with bradycardia. J Arrhythm. 2024;40(2):333-341. doi:10.1002/joa3.12997



Paced QRS幅(A)、植え込み直後の閾値(B)、同一術者の手術時間(C)の比較を行った。閾値の経時的変化は対数変換後にrepeated measures ANOVAで解析した(D-1,D-2)。数値は平均±標準偏差(A)もしくは、中央値[四分位範囲](B,C)で表示。

Case Report Award

IgG4関連疾患に伴う冠動脈瘤の血栓閉塞により発症した急性心筋梗塞(AMI)の2自験例

薄田英樹 1)2)、田辺恭彦 2)、和田理澄 2)、熊木隆之 1)、田代啓太 1)、秋山琢洋 1)、久保田直樹 1)、大久保健志 1)、池上龍太郎 1)、吉田剛 2)、保屋野真 1)、猪又孝元 1)
1)新潟大学大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学
2)新潟県立新発田病院 循環器内科学 

【症例】
<症例1>73歳男性、IgG4関連冠動脈周囲炎に対するステロイド治療中にAMIを発症した。冠動脈造影(CAG)では左回旋枝巨大瘤の内部が多量の血栓で閉塞しており(Figure 1-a)、血栓に阻まれてワイヤが通過せず、血栓溶解療法(mt-PA160万単位静脈投与)が行われた。
<症例2>76歳男性、AMIで救急搬送され、右冠動脈の巨大瘤内部が血栓閉塞していた(Figure2-a)。ワイヤが血栓を通過できず、mt-PA160万単位が静脈投与された。形態学的にIgG4関連疾患(IgG4-RD)の関与が疑われ、血清IgG4高値からIgG4関連疾患疑診群と診断された。2例ともmt-PA投与後に冠動脈の再還流が得られ(Figure1-b, Figure2-b)、冠動脈CTではIgG4-RDに特徴的な血管周囲軟部組織増生も確認された。以後ワルファリン内服で再発なく経過観察されている。

【考察】
IgG4-RD冠動脈周囲炎では冠動脈壁の肥厚、血管周囲の軟部組織増生、巨大冠動脈瘤の3つが臨床所見として報告されている。1)IgG4-RDに対してはステロイド治療が有効であるとされている2)が、ステロイド導入後に冠動脈壁の菲薄化を生じた結果、瘤の急速な増大や破裂した症例も存在し3)、画一化された治療法は存在しない。 IgG4-RDに伴うAMIの発症報告は稀であるが、2008-2024年の報告例および自験例の15例を参照すると、その機序は3つ(a. 動脈硬化病変の進行, b. 肥厚した冠動脈壁による内腔狭窄, c. 瘤内の血栓閉塞)に分類される。冠動脈瘤を認めた症例は10例だったが、血栓閉塞が原因の症例はうち8例と高率だった。冠動脈瘤動脈瘤合併のIgG4-RD患者のACSではワイヤ通過が困難な場合に血栓溶解療法の施行が推奨される。
冠動脈瘤患者はMACE発症率が高いことが報告されているが、ワルファリンの至適コントロール群ではMACE発症率が抑制されることが報告されている。4)ステロイド治療により血栓リスクが上昇する事、自験例のうち1例がステロイド導入中のACSだった事を踏まえ、IgG4-RD冠動脈瘤合併患者では、1次/2次予防の為のワルファリンの使用が推奨される。

【結語】
IgG4関連疾患で巨大冠動脈瘤の内部が血栓閉塞を生じた場合、ワイヤ通過が極めて困難な可能性があり、mt-PAなどの血栓溶解療法による治療が推奨される。また、冠動脈瘤の合併症例では1次/2次予防目的にワルファリンの内服と至適コントロールも推奨される。

【参考文献】

1)
Nishimura S, Amano M, Izumi C, et al. Multiple Coronary Artery Aneurysms and Thoracic Aortitis Associated with IgG4-related Disease. Intern Med 2016
2)
Tran MN, Langguth D, Hart G, et al. IgG4-related systemic disease with coronary arteritis and aortitis, causing recurring critical coronary ischemia. Int J Cardiol 2015
3)
Tajima M, Hiroi Y, Takazawa Y, et al. Immunoglobulin G4- related multiple systemic aneurysms and splenic aneurysm rupture during steroid therapy. Hum Pathol 2014
4)
Doi T, Kataoka Y, Noguchi T, et al. Coronary Artery Ectasia Predicts Future Cardiac Events in Patients With Acute Myocardial Infarction. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2017

Figure 1 症例1(a: ACS時CAG, b: LCX 冠動脈CT, c:血管壁肥厚/軟部組織増生)

Figure 2 症例1(a:ACS時CAG, b:再疎通後CAG, c: 血管壁肥厚/軟部組織増生)

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