情報・広報・啓発委員会より

第272回関東甲信越地方会 受賞者一覧(2024年6月1日開催)

受賞演題一覧

第272回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2024年6月1日開催)

Student Award

左室内血栓および腎梗塞を合併し、血栓性素因として抗リン脂質抗体症候群の併存が示唆された特発性冠動脈解離の一例

藤田 美優1, 田邉 裕也1,加藤 央隼1,加藤 賢1, 小林 欣夫1
1)千葉大学医学部附属病院 循環器内科

«症例»
生来健康な51歳女性。入院前日に2時間続く胸痛が出現し、翌日にも違和感があったため前医を受診した。心電図ではST上昇はないが広範な陰性T波を認め、急性冠症候群の疑いで同日に当院へ転院搬送された。心臓超音波検査では心尖部に限局した壁運動低下を認め、血液検査では心筋逸脱酵素の上昇を認めた。緊急冠動脈造影検査で左前下行枝#8の90%狭窄を認め、血管内超音波検査で特発性冠動脈解離と診断、冠血流が保たれていたことから保存的加療の方針とした。第7病日に冠動脈フォロー目的に行った造影CTで左室内血栓と右腎梗塞を認め、抗凝固療法を開始した。第12病日の心臓MRIで左室内血栓の消失を確認し、第16病日に退院とした。抗凝固薬開始前の血液検査ではループスアンチコアグラントが陽性であり、抗リン脂質抗体症候群の併存が示唆された。退院後は左室内血栓の再発なく経過し、第71病日の造影CTで冠動脈狭窄は改善していた。第83病日にワルファリンの内服を一旦中止し、ループスアンチコアグラントを再検したところ再度陽性であったため、抗リン脂質抗体症候群の診断が確定し、ワルファリンを再開した。

«考察»
特発性冠動脈解離の発症機序については、「血管壁内の脈管の破綻による血腫形成」や「内膜のtearをentryとする解離形成」が考えられており、保存治療の目標は「偽腔の早期血栓化」および「血腫吸収による狭窄の改善」である。一方で左室内血栓および抗リン脂質抗体症候群に対しては血栓溶解・再発予防目的で抗凝固療法が必要である。本症例はこの相反する治療を要する状況であり、抗凝固薬の追加に際して懸念があった。特発性冠動脈解離に抗リン脂質抗体症候群を合併した過去の症例報告では、いずれも抗血小板薬1剤もしくは2剤に加えて抗凝固療法を併用していたが、冠動脈解離の増悪はなかったとされている。本症例のように抗リン脂質抗体症候群を素因とした左室内血栓、さらには血栓塞栓症を合併した場合は、抗血小板薬に加え抗凝固薬を併用することは妥当と考えられた。

«結語»
特発性冠動脈解離と抗リン脂質抗体症候群の合併症例の治療においては、血栓化促進と抗凝固療法という相反する治療目標が併存するという潜在的ジレンマが不可避であるが、特に本症例のように血栓塞栓症を併発した場合は抗凝固薬の追加を積極的に検討すべきである。

«参考文献»

1)
Hayes SN, et al. Spontaneous Coronary Artery Dissection: Current State of the Science: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2018 May 8;137(19):e523-e557.

Resident Award

Stanford A型大動脈解離術後の残存解離による後負荷で進行性の左室収縮能低下を認めた一例

後藤尚志1)、中村則人2)、北澤拓治2)、鈴木大樹2)、吉川万里江2)、塩崎学2)、上岡智彦2)、伊地知健2)、大野洋平2)、永井知雄2) 、網野真理2) 、吉岡公一郎2)、伊苅裕二 2)
1)東海⼤学医学部付属病院 臨床研修部
2)東海⼤学医学部付属病院 循環器内科

【症例】
54歳男性。X-3月に右冠動脈閉塞を伴うStanford A型急性大動脈解離に対し上行大動脈置換+冠動脈バイパス術が施行された。退院後より、労作時息切れが強くなり、X月に心不全増悪で再入院となった。入院時左室駆出率は前回入院時と比して著明に悪化していたが(36%→19%)、CTではグラフト閉塞を認めるものの左冠動脈の病変進行は認められなかった。下行大動脈以遠に残存解離による真腔圧排が認められ(図1)、虚血性心筋症に加え真腔圧排による後負荷が心機能低下の原因と考えた。第8病日に胸部大動脈ステントグラフト内挿術、第41病日に血管内開窓術を施行し、左室駆出率改善(19→26%)と心不全症状改善を認めた。

【考察】
本症例では、上行大動脈置換による動脈コンプライアンス低下、著明な真腔狭小化による後負荷増大、心筋梗塞による心筋障害などが複合的に影響し、拡張障害だけでなく収縮能低下を伴う非代償性心不全を生じたものと考える。
一般的に、臓器灌流障害を伴う大動脈解離の場合、ステントグラフトによるentry閉鎖や外科的/内科的開窓術、バイパス等が検討される。しかし本症例のように、臓器障害では無く、左室後負荷を軽減するために、ステントグラフト留置や血管内開窓術を行うことは非常に稀である。ステントグラフト留置後に逆行性の血流による真腔圧排が残存していたため、血管内開窓術を施行し、順行性の血流を増やす事で、後負荷軽減を図り、良好な転帰を得た。(図2)

【結語】
⼤動脈解離に進行性の左室収縮能低下を認めた症例を経験した。真腔圧排による左室後負荷に対し、ステントグラフト留置や⾎管内開窓術を行うことで心不全症状の改善を得た。


(図1)

(図2)

Clinical Research Award

FBN1レアバリアントによって発症した非症候群性大動脈瘤・解離患者の臨床的特徴

八木宏樹 1、4 、武田憲文 1、4、秋山奈々 2、4、安藤政彦 3、4、山内治雄 3、4、石田純一 1、赤澤宏1、武田憲彦1、小室一成1、5
東京大学医学部附属病院 循環器内科 1、ゲノム診療部 2、心臓外科3、マルファン症候群センター4、国際医療福祉大学5

【背景・目的】
マルファン症候群(MFS)は、大動脈弁輪拡張症や骨格、眼、肺などの多系統障害を特徴(症候群性)とするが、近年の遺伝子パネル検査の普及に伴い、MFSの身体的特徴を有さない(非症候群性)胸部大動脈瘤・解離(TAAD)患者の一部でもFBN1の病的変異が散見されるようになった(FBN1-related TAAD)1)2)。しかしFBN1-related TAAD(非症候群性)の血管合併症の自然歴や臨床的特徴は不明であるため、MFS(症候群性)と比較することで上記疑問点を検証することとした。

【方法】
2018年1月から2023年11月までに当センターで遺伝性TAADの候補遺伝子のパネル解析を実施した229例を後方視的に解析した。MFSを改訂ゲント基準に照らし合わせて診断された症例、FBN1-related TAADをMFSに典型的な身体的特徴を有さず(全身スコア4点以下、水晶体脱臼なし)遺伝学的検査からFBN1の病的変異が同定された症例と定義した。主要大血管障害を大動脈解離、大血管に対する手術歴およびその関連死とした。

【結果】
229例中106例からFBN1の病的変異が同定され、91例(85.54%)がMFSで42例(46.15%)が大血管障害を併発していた。一方15例(14.15%)がFBN1-related TAADに該当し、全例で既に大血管障害を発症してから診断されていた。MFS群(n=42)とFBN1-related TAAD群(n=15)の臨床像を比較したところ、両群で大動脈解離の家族歴は同程度に認めたが、後者ではMFSと診断された家族がいなかった(表1)。また前者と比較し、後者のFBN1遺伝子型はドミナントネガティブ型変異が有意に多く、全身スコアが低値であることと関連し通院開始年齢は有意に遅くなり、生活習慣病の罹患率が高かった(全てp<0.05)(表1)。FBN1-related TAAD群は大部分(93.3%)が大動脈解離を契機に通院を始めており、主要な大血管障害の発生率には有意差を認めなかった(FBN1-related TAAD vs. MFS: Adjusted HR 0.86 (0.4-1.7); p=0.656)(図2)。

【結論】
FBN1-related TAADは早期診断と管理が困難なMFSの重症亜型である。主要大血管障害を発症する前に診断されることが稀であり、解離の家族歴を有するTAAD症例には、積極的な遺伝学的検査を行うことが早期診断に重要である。

【結論】
1) Pan M, Li L, Li Z, Chen S, Li Z, Wang Y, He H, Lin L, Wang H, Liu Q. Rare Variants and Polymorphisms of FBN1 Gene May Increase the Risk of Non-Syndromic Aortic Dissection. Front Genet. 2022;13:778806. doi: 10.3389/fgene.2022.778806. eCollection 2022.
2) Tan L, Li Z, Zhou C, Cao Y, Zhang L, Li X, Cianflone K, Wang Y, Wang DW. FBN1 mutations largely contribute to sporadic non-syndromic aortic dissection. Hum Mol Genet. 2017;26(24):4814-4822. doi: 10.1093/hmg/ddx360.

表1. FBN1-related TAAD、MFS患者の背景
群間の平均値の有意差はunpaired t検定を、群間の頻度の有意差はFisherの正確確立検定を用いて評価。p<0.05を統計的に有意とみなした。DA:大動脈解離、AAE:大動脈弁輪拡張症

図2. FBN1-related TAAD、MFS 患者の主要大血管障害の発生率
Kaplan-Meier法を用いて主要大血管障害のイベントフリー生存曲線を作成し、log-rank検定を用いて比較。イベントフリー生存曲線の終点は主要大血管障害およびその関連死の時点。

Case Report Award

病勢初期に大動脈弁閉鎖不全症の急速な進行を認め、集学的治療を要したベーチェット病の一例

羽山綾華 1)、長谷川祐紀 1)、内藤大智 1)、和田理澄 1)、秋山琢洋 1)、石塚光夫 1)、関谷祐香 1)、大久保健志 1)、藤木伸也 1)、高山亜美 1)、柏村健 1)、猪又孝元 1)、羽山響 2)、榎本貴士 2)、三島健人 2)、里方一紀 3)、小林大介 3)
1)新潟大学大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学
2)新潟大学大学院医歯学総合病院 心臓血管外科 
3)新潟大学医歯学総合病院 腎・膠原病内科

【症例】
20歳男性。1ヶ月前からの呼吸苦、発熱、下痢のため前医を受診、心エコー図検査で左室収縮能低下(LVEF 50%)、大動脈基部拡大、重症大動脈閉鎖不全症(AR)を認めた。心不全治療が開始されるも2週間でARは増悪、LVEF 35%まで低下し、当科に転院した。造影CTで上行大動脈壁周囲の脂肪織濃度の上昇と下行大動脈に比して上行大動脈の拡大を認め、血管炎を疑った。身体所見で口腔内アフタ、陰部潰瘍、痤瘡様皮疹を認め、下部消化管内視鏡で回盲部に打ち抜き潰瘍を認め、不完全型ベーチェット病(BD)と診断した。当院転院後3日目からステロイドパルス(IVMP)を開始、翌日にvolume Over loadにより心不全が増悪しICU管理とした。心不全治療を強化しIVMP 3日間継続、以後PSL 60mgの内服を継続した。心臓血管外科とも連携し、循環動態が破綻し緊急手術の可能性を考慮しつつ、CRPが陰転化するまで3週間集学的治療を行い、24日目に大動脈弁置換術を施行した。術中所見では上行大動脈壁は浮腫状で炎症を伴い、大動脈基部から上行大動脈の拡大を認めた。大動脈壁の病理組織検査の結果、活動性の炎症を示唆する所見はなかったが、内膜の著明な肥厚と高度な間質粘液の貯留、中膜の弾性繊維の消失と途絶を認めた。術後1ヶ月後にPSL 40mgまで漸減し、LVEF 35→55%へ改善、左室径も縮小し、Para valvular leakage(PVL)や仮性瘤は認めず第55病日に退院した。

【考察】
BDによるARでは、周術期に免疫抑制療法を併用しない場合、術後合併症(PVLや仮性瘤)の出現、再手術、死亡率が上昇する1)2)。本症例のようにBDが未診断で急性増悪した重症ARでは、特に早期のBDの診断が重要である。本邦の血管型BDの臨床的特徴は、20~40歳台で男性優位であり、ARが顕在化した段階でBDの主症状(特に口腔内潰瘍と皮膚症状)は必発し、消化器症状を伴うことが多い為、身体所見の確認と腹部症状の有無を確認し、下部消化管内視鏡検査を念頭におくことが重要である 3)

【結語】
BDの病勢初期にARが顕在化することがあり、早期の免疫抑制治療を要することから、若年者のARではBDを念頭に置くことが肝要である。

【参考文献】

1)
X Li, et al. Prognostic analysis of Behçet's disease with aortic regurgitation or involvement. Neth Heart J. 2022
2)
Hong-Mi Choi, et al. Predictors of paravalvular aortic regurgitation after surgery for Behcet's disease-related severe aortic regurgitationOrphanet J Rare Dis. 2019
3)
Haruko Ideguchi, et al. Characteristics of vascular involvement in Behçet's disease in Japan: a retrospective cohort study Clin Exp Rheumatol. 2011

Figure 1 造影CT

Figure2 病理組織検査

Figure 3 術中所見

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