第271回関東甲信越地方会 受賞者一覧(2024年2月17日開催)
第271回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2023年12月16日開催)
Student Award
大動脈弁閉鎖不全症診断における胸部レントゲン画像と心電図を統合したバイモーダルAIの可能性
早道奏喜1,2, 佐藤将敬2,小寺聡2,藤井恵美2, 岸川理紗2, 澤野晋之介2, 篠原宏樹2,東邦康智2,藤生克仁2,赤澤宏2,小室一成
1) 順天堂大学医学部
2) 東京大学医学部附属病院循環器内科
«背景»
慢性的な大動脈弁閉鎖不全症(AR)は無症状で経過し重症になると死亡率が高い。また、ARの診断には心エコーの専門家による検査が必要であり、効果的なスクリーニングが望まれている。AIによるARの診断はこれまで胸部レントゲン画像(CXR)からARを検出するモデル1)や、心電図(ECG)からARを検出するモデル2)が発表されている。しかし、様々な検査結果を統合して疾患を予測するマルチモーダルAIの報告は少ない。
«目的»
マルチモーダルAIのFirst StepとしてCXRとECGから疾患を予測するバイモーダルAIを開発し、単一モーダルAIと比較する。
«手法»
2015~2021年の東京大学医学部附属病院で取得されたCXRとECGをもつ患者データ8604件を用いて、図1のようにCXR単一モーダルAIおよびECG単一モーダルAIを作成し、各々のAIで患者データについてARの予測精度を算出した。算出された二つの予測精度を各患者データについて統合してバイモーダルAIを作成し、最終的なARの予測精度を算出した。
«結果»
AIの精度の評価としてArea Under the receiver operating characteristic curve (AUROC)を用いた。AUROCはCXR単一モーダルAIでは0.70、ECG単一モーダルAIでは0.79であった。CXRとECGを結合したバイモーダルAIでは0.83であった。
«考察»
ARの有病率はFramingham Heart Studyによると70歳以上で2%であり3)、本AIを利用すると陽性的中率は32%となる。スクリーニングの利用にはより細かいリスク層別化後が好ましいと考える。一方で、先行研究で心臓専門医による拡張期雑音の聴取で中等度以上のARの感度は82%という報告があり4)、本AIを用いると陽性的中率は99%となる。このことから、プライマリケアの現場で早期発見に寄与することが期待できる。
«結論»
CXR,ECG単一モーダルAIより、これらを統合したバイモーダルAIの方がAR診断の精度が向上しうる。
«参考文献»
- 1)
- Daiju Ueda, et al. Artificial intelligence-based model to classify cardiac functions from chest radiographs: a multi-institutional, retrospective model development and validation study. Lancet Digit Health 2023
- 2)
- Shinosuke Sawano, et al. Deep learning model to detect significant aortic regurgitation using electrocardiography, Journal of Cardiology 2022
- 3)
- J P Singh, et al. Prevalence and Clinical Determinants of Mitral,Tricuspid, and Aortic Regugitation.(The Framingham Heart Study) AM J Cardiol. 1999
- 4)
- 石光敏行, et al.大動脈弁閉鎖不全診断におけるカラードプラ法と聴診法およびMモード心エコー図法との比較:非リウマチ性大動脈弁閉鎖不全症例での検討, 日本内科学会雑誌1989
Resident Award
全身塞栓症を合併した左房左室内に同時に発生した血液嚢腫の一例
須郷加奈子1)、柴田恵多1)、石永智之1)、草壁優太1)、相澤直樹1)、古屋貴宏1)、佐藤千聡1)、西蔵天人1)、池田尚子1)、若林公平1) 、丹野郁1) 、山口裕己2)
1)昭和大学江東豊洲病院 循環器センター 循環器内科
2)昭和大学江東豊洲病院 循環器センター 心臓血管外科
【症例】
50歳代女性。1か月前から労作時呼吸困難や起座呼吸があり、同時に右側背部に潰瘍を認めた。その後、潰瘍が黒色へ変化したため前医を受診した。造影CT検査で左房および左室内にそれぞれ11×7mm、24×14mm大の腫瘤影を認め、当院へ転院搬送された。当院で施行した経胸壁心臓超音波検査で左房中隔側および左室心尖部中隔側に有茎性の可動性に富んだ腫瘤性病変を認めた。左房内腫瘤は15×9mmで表面平滑、左室内腫瘤は29×23mmで表面はやや不整、いずれの腫瘤も内部不均一であった。また、当院で行った頭部MRI検査では右放線冠を中心に無症候性の多発脳梗塞を認め心原性脳梗塞が疑われた。全身塞栓症を伴う心臓腫瘍に対して、第2病日に外科的切除を行った。切除された左房・左室内腫瘤は病理検査に提出した。病理検査では左房・左室内腫瘤ともに内部はほぼフィブリンか血小板成分であり、白血球成分は好中球が主体であり新しい血栓成分に認められる所見であった。表層は単層の細胞で覆われたところが多く、血液嚢腫に典型的な病理所見であった。全身塞栓症を起こしており、術後からワーファリンを開始し、第60病日にリハビリ病院へ転院した。
【考察】
心内血液嚢腫は新生児期に多く(約50%)、生後6ヶ月以内に自然消退するとされ、本症例のように成人での報告歴は稀である。無症候例が多いが、稀に弁機能不全や塞栓症に至ることがあり、そのような症例では早期外科的切除が望ましいとされる。
我々はPubmedで1963年から2023年9月までの過去の症例報告を調査し、まとめた。平均年齢は45.7歳、約半数が女性であった。血液嚢腫の発生部位は僧帽弁・右房・三尖弁の順に多く、左房や左室からの発生はそれぞれ2.2%と稀であった。さらに、成人例で複数嚢腫を認めた症例は全症例132例中3例のみであり、いずれも同一箇所での発生で、僧帽弁例が2例、右房例が1例であった。本症例は発生頻度の低い左房・左室に複数嚢腫を認めた非常に稀な症例であった。
【結語】
全身塞栓症を合併した、左房左室内に同時に発生した血液嚢腫の一例を経験した。
Clinical Research Award
コレステロール結晶による大動脈不安定プラークの検討: 血流維持型血管内視鏡と病理学的研究
田中 雄大1、小嶋 啓介1、母坪 友太1、中島 佑樹1、高橋 くらら1、右田 昌平1、溝渕 公規1、宮川 真継1、福本 勝文1、新井 陸1、盛川 智之1、峯木 隆志1、須藤 晃正1、北野 大輔1、村田 伸弘1、奥村 恭男1
1) 日本大学医学部附属板橋病院 循環器内科
【背景】
血流維持型血管内視鏡(NOGA) は、CTなどの他の画像モダリティと比較して大動脈内膜の性状をより明確に描出することが可能である。大動脈プラークの破綻は臓器障害に関与する可能性があることが示されているが、これは破綻した大動脈プラークから血中にコレステロール結晶(CCs)が飛散し末梢臓器で炎症を惹起することが原因と推測されている。様々な種類の大動脈プラークが存在するが、これまで大動脈プラーク性状による不安定性の違いを検討した報告はない。
【目的】
CCsの検出頻度に基づいて、末梢臓器に影響しうるハイリスクな大動脈プラークの種類を同定する。
【方法】
2021年9月から2023年11月にNOGAを施行した冠動脈疾患患者、連続105例を前向きに検討した。腎動脈下腹部大動脈における計6種類の大動脈プラーク248ヶ所からカテーテル越しに血液検体10mlを採取し、ろ紙リンス法を用いて偏光顕微鏡でCCsの存在を評価しすることで大動脈プラークの種類別にCCsが検出される頻度を比較した。
【結果】
CCsは全検体の22.6%(n=56/248)から検出された。CCs検出頻度はpuff chandelier ruptureが47.1%、puff ruptureが18.5%、thrombiが3.0%、yellow plaqueが1.9%、ulcer、fissureはいずれも0%であった(P<0.0001>。CCsの検出率はpuff chandelier rupture、puff ruptureの順で高く、その他のプラークからはほとんど検出されなかった。
【結論】
Puff chandelier rupture及びpuff ruptureは末梢臓器へ影響を生じうる不安定プラークであることが示唆された。
Case Report Award
肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症を発症した一卵性双生児例
河合良樹 1)、石井俊輔 1)、飯倉早映子 1)、江田優子 1)、瀧上悠 1)、藤田鉄平 1)、飯田祐一郎 1)、池田祐毅 1)、鍋田健 1)、大郷剛 2)、大郷恵子 3)、阿古潤哉 1)
1) 北里大学医学部循環器内科学
2) 国立循環器病研究センター心臓血管内科部門肺循環科
3) 国立循環器病研究センター病理部
【症例】
生来健康な 43 歳女性。息切れおよび血痰を主訴に呼吸器内科を受診し、各種肺疾患の精査が気管支鏡検査を含め施行されたが確定診断には至らなかった。その後も呼吸困難は改善せず、一卵性双生児の妹が他院で運動誘発性肺高血圧症と診断されていたことから、肺高血圧症精査目的に当科に紹介となった。心エコー図検査では、積極的に肺高血圧を示唆する所見は認めなかったが、肺血流シンチ(Figure1)で末梢での血流障害を認めた。右心カテーテル検査では平均肺動脈圧 29 mmHg の前毛細血管性肺高血圧を認め、肺生検では肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症 (PVOD/PCH)に矛盾しない所見(Figure2)を認め、DLCO の著明低値及び胸部 CT 所見(Figure3)から PVOD/PCH の診断に至った。他院でPVOD/PCH と診断されていた一卵性双生児の妹の治療経過も参考に、肺血管拡張薬を導入し、肺移植登録を行う方針となった。
【考察】
PVOD/PCH は肺静脈/毛細血管を病変の主座とする肺高血圧であるが、血行動態評価では肺動脈性肺高血圧症と類似し、診断に難渋、または誤診する症例も多い。酸素飽和度低下、肺の拡散障害、胸部 CT などから総合的に診断する事が必要である 1)。また遺伝子診断が鑑別にも有用である2)3)。本症例においても遺伝子解析を行っているが、現時点では既報の EIF2AK2 の変異は認められず、新規の遺伝子異常の可能性がある。
さらに治療として肺血管拡張薬の投与も検討されるが、薬剤での根治は困難である。唯一の根治治療は肺移植であるが、本疾患の進行性病態や肺移植待機期間を考慮した対応が診断当初から必要とされる 4)5)。
【結語】
PVOD/PCH と診断し、肺血管拡張薬により一時的に改善を得た一卵性双生児例を経験した。
【参考文献】
- 1)
- Humbert M, et al. Eur Heart J. 2022.
- 2)
- Hadinnapola C, et al. Circulation 2017.
- 3)
- Best DH, et al. Chest 2014.
- 4)
- Palmer SM, et al. Chest 1998.
- 5)
- Nakamura J, et al. Pulm Circ 2022.