情報・広報・啓発委員会より

第270回関東甲信越地方会 受賞者一覧(2023年12月16日開催)

受賞演題一覧

第270回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2023年12月16日開催)

Student Award

HFpEFにおけるImproving Renal Function(IRF)の意義と入院時Fib4 indexによるIRFの予測

入江 光顕1、渡邉 陽介2、植松 学2、市川 優真2、堀越 健生2、山口 千之2、吉崎 徹2、黒木 健志2、小林 剛2、中村 貴光2、中村 和人2、佐藤 明2
1) 山梨大学医学部医学科5年
2) 山梨大学医学部内科学講座循環器内科学教室

«背景»
急性心不全による入院後のImproving renal function (IRF)は、腎うっ血や低還流による一過性の腎機能低下を示唆する所見である。IRFを起こした患者は予後不良であることが知られている。しかしながら、HFpEFに限った場合のIRFの予後への影響は不明である。さらにIRF患者では腎うっ血を解除するため積極的な利尿薬の投与が必要である可能性があるが、入院時にIRFを起こすかどうか判断できず簡易に腎うっ血を評価する指標が存在しない。そこで近年うっ血肝の指標として考えられているFibrosis-4 index (Fib-4 index)は右房圧を反映し右房圧上昇は腎うっ血をきたすため、Fib-4 indexは腎うっ血の指標となりIRFを予測できる可能性がある。

«目的»
HFpEFにおけるIRFの予後への影響と入院時Fib-4 indexがIRF予測因子となるかどうか検討する

«方法»
2004年から2019年までに当院に急性心不全入院しBNP≧200pg/mlかつ利尿薬・硝酸薬・強心薬の1つ以上の静脈注射加療を受けた333例を対象とした。入院時eGFR、Fib-4 indexを測定していない患者、透析加療を受けている患者、死亡退院した患者、慢性肝疾患が併存している患者は今回の研究から除外した。Primary Endpointは全死亡とした。

«結果»
① HFpEFのIRFは臓器うっ血を示唆する所見であるため、予後悪化の指標になったと推測される。
② 肝うっ血の原因となる右房圧の上昇が腎うっ血に関与するため入院時Fib-4 indexがIRFを予測できた。
③ IRF群は退院時うっ血が残存する症例が多いが、うっ血の解除を達成できた症例は予後が良いとされているため、入院時eGFR低値かつFib-4 index高値症例では早期より積極的な利尿薬投与により、予後を改善できる可能性がある。

«結論»
急性心不全患者で入院となったHFpEF患者においてIRF群は1年死亡率が有意に高かった。また入院時Fib-4 indexは独立したIRFの予測因子である。

«参考文献»

1)
Wettersten N, et al. Decongestion discriminates risk for one-year mortality in patients with improving renal function in acute heart failure. Eur J Heart Fail. 2021;23:1122-1130.
2)
Maeda D, et al. Fibrosis-4 index reflects right-sided filling pressure in patients with heart failure. Heart Vessels. 2020;35:376-383.
3)
Iida N, et al. Clinical Implications of Intrarenal Hemodynamic Evaluation by Doppler Ultrasonography in Heart Failure. JACC Heart Fail. 2016;4:674-682.

Resident Award

Arrhythmic MRに対して完全鏡視下僧帽弁形成術、乳頭筋アブレーションが奏功した一例

村田 直樹1、遠藤 大介2、板東 哲史2、李 智榮2、陣野 太陽2、山根 吉貴2、佐藤 友一郎2、横山 泰孝2、木下 武2、田端 実2
1)順天堂大学医学部附属順天堂医院
2)順天堂大学医学部附属順天堂医院心臓血管外科

【症例】 49歳女性。3年前に心室細動で蘇生され、すぐにICDが埋め込まれた。経過中に2回ICDが作動した。重度MRがあり評価目的に当院紹介されフォローしていたところ、半年前から労作時呼吸困難症状が出現したため手術適応と判断した。入院時には心尖部を最強点とするLevine Ⅲ/Ⅵの汎収縮期雑音を認めた。胸部レントゲン写真では、CTR52%と軽度心拡大、心電図ではPVC頻発を認めており、ホルター心電図で一日に約3700個、3.5%の頻度であった。また、右脚ブロックと左軸偏位の所見から、PVCは左室下壁起源と疑った。術前の経食道心臓超音波検査では両尖逸脱、内側優位のindentationと中央からの重度逆流認めましたが、腱索断裂は認めなかった。高度弁輪拡大はありAP間は48.2mm, CC間は59.5mmだった。後尖側に著明なmitral annular disjunctionを認めたが、Arrhythmic MRに特徴的なPickelhaube signは認めなかった。以上より、Vf歴、多発PVCを伴う症候性重度一次性MRからArrhythmic MRと診断し、心電図所見と過去の文献を照らし合わせて心室性不整脈の起源は左室乳頭筋基部と判断した上で、内視鏡下MICSによるMVP、乳頭筋アブレーションの方針とした。手術はMICSで計6本の人工腱索を再建し、36mmのPhysioringⅡを縫着して僧帽弁形成術を実施した。先端がしなやかで柔らかいcryoFORMを用いて前後乳頭筋のクライオアブレーションを実施した。手術時間は4時間12分、人工心肺時間は2時間53分、大動脈遮断時間は2時間13分だった。術後5時間で抜管し、第1日にICUを退室、経過良好で第5病日に自宅退院となった。 術後2ヶ月でのホルター心電図ではPVCは0.6%で術前に比べて83%減少した。

【考察】 Arrhythmic MRとは他に不整脈の原因となる器質性変化がない場合に、MRに加えて心室性不整脈を有する疾患の状態と定義される。心室性不整脈の重症度が上がるにつれて心臓突然死のリスクが上がるとされている。心室性不整脈の原因は乳頭筋やプルキンエ線維の変性であり、心電図所見より心室性不整脈発生起源が推測できる。カテーテルアブレーションに対する外科的アブレーションの強みは同時にMRを治療可能であること、cryoFORMを使うことで心室内のどの部位でも確実にアプローチでき、内視鏡下MICSアプローチにより心室内の複雑な解剖を視認できることである。

【結語】 Arrhythmic MRに対してMICSでMVP、cryoFORMを用いた乳頭筋アブレーションを行った。4K内視鏡により左室内の良好な視野展開ができ,フレキシブルなcryoFORMの使用が乳頭筋アブレーションに有用であった。

Clinical Research Award

虚血性心疾患を有する透析患者に対するPCI後の、PCSK-9阻害薬投与の有効性に関する前向き研究

菱刈 景一1 ,疋田 浩之1 ,髙橋 健1 ,渡邊  崇弘1 ,池田  博1 ,張  峻模1 ,伊藤  諒1 ,矢野 弘崇1 ,川口 直彦1 ,中島 永美子1 ,村井 典史 1 ,高木 克昌1 ,大久保 健史1 ,田中 泰章1 ,高橋 淳1 ,米津 太志2 ,笹野 哲郎2
1) 横須賀共済病院 循環器内科
2) 東京医科歯科大学 循環制御内科学

【背景】
慢性腎臓病患者は心血管リスクの高リスク群に入るために積極的な脂質低下療法が推奨されているが、高リスク透析患者に対する積極的脂質低下療法の有効性は未解明である (1, 2)。

【目的】
虚血性心疾患を有する透析患者に対して、経皮的冠動脈インターベンション
(PCI)後にProprotein Convertase Subtilisin / Kexin type 9
(PCSK-9)阻害薬を投与する積極的脂質低下療法が、主要有害心血管 及び主要下肢虚血事象(MACLEs)を改善するか前向きに検討した。

【方法】
PCIを施行する218人の透析患者を前向きにPCSK-9阻害薬投与群(n=108)とコントロール群(n=110)に割り振り、 2年間のMACLEs発症に関して解析した。

【結果】
患者・病変背景は、平均年齢72.2±8.9歳、男性69.6%、糖尿病 62.1%、維持透析100%だった。PCSK-9阻害薬投与群のLDLコレステロール値は2年間で15mg/dl(11-27mg/dl)までコントロールされて、コントロール群に比して有意に減少した (P <0.001)。2年間のMACLEsに関しては、PCSK-9阻害薬投与群で有意に少なかった(HR,0.64; 95% CI,0.44 to 0.91;P=0.014)。 主要な有害事象の発現に関しては両群で有意差を認めなかった(P=0.32)。

【結論】
高リスクの透析患者に対して、PCI後にPCSK-9阻害薬を投与する積極的脂質低下療法はMACLEsを改善する可能性がある。

【参考文献】

1)
François Mach, Colin Baigent, Alberico L Catapano, et al. Eur Heart J. 2020. 41(1):111-188.
2)
Bengt C Fellström, Alan G Jardine, Roland E Schmieder, et al. N Engl J Med. 2009. 360(14):1395-407.

Case Report Award

嚥下誘発性心房頻拍をトリガーとした発作性上室頻拍により失神発作をきたした一例

酒井 瑛子1)、角田 貴大1)、清水 厚哉1)、三須 彬生1)、立石 遼1)、山口 正男1)、加藤 信孝1)、島田 博史1)、一色 亜美1)、鈴木 秀俊1)、清水 雅人1)、藤 井 洋之1)、鈴木 誠1)、笹野 哲郎2)
1) 国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院 循環器内科
2) 東京医科歯科大学 循環制御内科学

【症例】
症例は79歳男性。X年2月動悸と眼前暗黒感を認め当科外来を受診、器質的心疾患は否定的であり後日ホルター心電図を施行予定とされた。2日後、自宅で失神、転倒・頭部打撲をきたし当科外来を受診した。繰り返す前失神・失神の精査加療目的に、同日緊急入院した。入院後、食事時間に一致した頻拍を認め、動悸と前失神症状を伴った(Figure 1)。飲水テストでは再現性をもって頻拍が誘発され(Figure 2)、嚥下誘発性心房頻拍(AT)と診断した。心臓電気生理学的検査にて精査加療の方針とした。食道造影施行後に頻拍の誘発を試みたところ、水の嚥下から再現性を持って15-20秒ほど持続するATを繰り返し認め、頻拍時血圧低下を認めた。また常に先行する嚥下誘発性ATから発作性上室頻拍(PSVT)が誘発されたことから、嚥下誘発性ATをトリガーとするPSVTと診断した(Figure 3)。嚥下を繰り返しながらATのマッピングを施行、再早期興奮部位である右房後中隔への焼灼でATは 誘発不能となった。またPSVTは通常型房室結節回帰性頻拍と診断、遅伝導路焼灼を施行した。以後、嚥下時の動悸、前失神症状は認めず、ホルター心電図のフォローでPACは認めるものの嚥下誘発性AT/PSVTの再発はなく経過した。

【考察】
嚥下誘発性心房頻拍の機序は不明な点も多いが、嚥下時の食道通過に伴う左房の機械的刺激1)と食道の伸展に伴う自律神経刺激2)が考えられている。本症例の最早期部位と食道は離れており、機械的刺激による機序は否定的であった。自律神経刺激について、心臓には内因性自律神経節(GP)が分布しており、今回頻拍起源として焼灼を行った場所は、RAGPが存在する場所に近接していたことから3)4)、RAGPからの自律神経刺激が頻拍の発生に関与した可能性が示唆された(Figure 4)。

【結語】
嚥下誘発性ATをトリガーとしたPSVTによる失神をきたした稀有な一例を経験した。

【参考文献】

1)
Greepson AJ, et al. Pacing Clin Electrophysiol 1988 ; 11 : 1566-1570
2)
Lindsay, et al. Am Heart J 1973 ; 85 : 679-684
3)
Arora R, et al. Am J Physiol Heart Circ Physiol, 2008 ; 294 : 134 - 144
4)
Kartrists DG, et al. J Am Coll Cardiol, 2013 ; 62 : 2318-2325

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