情報・広報・啓発委員会より

第267回関東甲信越地方会 受賞演題一覧(2023年2月25日開催)

受賞演題一覧

第267回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2023年2月25日開催)

Student Award

集学的治療により劇的な改善を認めた膠原病合併肺動脈性肺高血圧症の一例

横江 美紅1)、樋口 聡2)、新井 帝東2)、布施 汐理2)、谷澤 宏樹2)、住田 有弘2)、新家 俊郎2)
1)昭和大学医学部
2)昭和大学医学部内科学講座循環器内科学部門

【症例】
症例は28歳女性で労作時呼吸困難、下腿浮腫を主訴に来院した。13年前に全身性エリテマトーデス(SLE)と診断され、プレドニゾロン内服により寛解が得られていたが、3年前に自己中断した。1年前から呼吸困難を自覚し、徐々に増悪してきたため近医を受診した。胸部レントゲンで左肺動脈陰影の拡大が認められたこと、NYHA class IIIであったことから当院へ紹介となった。身体所見上、Ⅱ音肺動脈成分の亢進とⅣ音を聴取した。採血では、トランスアミナーゼの軽度上昇、BNP上昇(450.8pg/mL)、血清補体価低下(5U/ml)を認めた。経胸壁心エコーでは右房右室の拡大を認め、推定右室収縮期圧(sPAP)は118mmHgであった。三尖弁輪収縮期移動距離(TAPSE)は18mm、右室肺動脈圧カップリング(TAPSEとsPAPの比)は0.15mm/mmHgと右室機能低下を認めた。以上より肺高血圧症が疑われ、精査加療目的で入院となった。右心カテーテル検査では、平均肺動脈圧は58mmHg、平均肺動脈楔入圧10mmHg、肺血管抵抗717dyn/sec/cm3、心係数1.4 L/min/m2であった。肺血流シンチでは有意な血流低下を認めなかった。以上所見より、結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症と診断した。REVEAL Registry Risk Scoreは9点、TAPSE/sPAPは0.15 mm/mmHgであったことからhigh riskと判断し、集学的治療を開始した。肺高血圧症に対してはマシテンタン、タダラフィルによるupfront combination therapy、SLEに対してはステロイドセミパルス、シクロホスファミドパルスを開始した。治療後1週間で6分間歩行は248mから400mまで改善し、治療開始3か月後の右心カテーテル検査では平均肺動脈圧は29mmHg、REVEAL Registry Risk Scoreは5点、TAPSE/sPAPは0.55 mm/mmHgと大幅な改善が得られた。図に示すように右房右室サイズの正常化を認めた。

【考察】
SLE合併肺高血圧症の治療に関しては免疫抑制剤単剤、選択的肺血管拡張薬単剤、これら治療薬の併用が選択肢として挙げられるが、優先順位は明確ではない。2017年改訂版肺高血圧症治療ガイドラインには、「SLEに伴う肺動脈性肺高血圧症に対しては、病初期のグルココルチコイドやシクロフォスファミドを用いた免疫抑制療法を推奨する(エビデンスレベルC)。また、必要に応じて選択的肺血管拡張薬の投与を考慮する(エビデンスレベルC)。」と記載されている。治療前NYHA class Ⅲ以上、かつ心係数3.1 L/min/m2未満が免疫抑制剤non-responderの予測因子であるとJ Xavierらは報告している。本症例ではNYHA classⅢ、心係数1.4 L/min/m2であり、non-responderであることが予想されたため、選択的肺血管拡張薬と免疫抑制剤の併用が妥当と判断した。長期予後についてであるが、Benza RLらは肺血管拡張薬使用後のREVEAL risk score変化は予後と関連すると報告している。本症例ではスコアが9点から5点と改善しており、良好な予後が期待される。

Resident Award

Clinical Research Award

低左心機能の拡張型心筋症症例におけるCTでの細胞外容積分画解析は予後予測に有用である

八島 聡美、髙岡 浩之、高橋 愛、木下 真己子、青木 秀平、鈴木 克也、佐々木 晴香、江口 紀子、
小林 欣夫
千葉大学医学部附属病院 循環器内科

【背景】
心臓MRIにおける心筋遅延造影所見は拡張型心筋症の予後不良因子として知られるが、びまん性の心筋障害を同手法で評価するのは困難だった。近年MRIのT1 mapping撮影によって左室細胞外容積分画(extracellular volume fraction : ECV)が算出できるようになり、新たに心筋線維化の定量的評価が可能となった。しかし、その施行の難しさ等から本邦の心臓MRI件数は需要と比べ十分な増加が乏しい。これに対して、近年検査数が急増している心臓CTでも最新の画像解析ソフトを用いることでMRIと同様にECVの算出が可能となり、心臓CTは撮影が簡単で短時間で施行可能等のメリットも多い。特に、拡張型心筋症症例では冠動脈疾患除外のために施行されることが多く、そのECV評価の臨床応用も期待されるが、同症例の予後予測に関してCTでのECV解析の有用性は不明である。

【目的】
心臓CTでのECV評価により、拡張型心筋症の予後予測が可能か検証した。

【方法】
2009年から2023年にかけて当院で心臓CTを施行した、左室駆出率 40%以下の低心機能の拡張型心筋症 80症例に対し心臓CTでのECV解析を行い、主要心有害心事象との関連を調査した(CTで冠動脈有意狭窄を有す例、他の心筋症、中等度以上の一次性弁膜症を有す症例は除いた)。有害心事象は心不全入院、致死性不整脈、心臓死と定義した。

【結果】
80症例のうち24例(30%)で主要心有害事象を認めた。患者背景については主要心有害事象の有無で有意差は認めなかった。経胸壁心エコー所見については、主要心有害事象を有した症例群では左室駆出率が有意に低く(24 ± 8% 対 28 ± 9%、P = 0.003)、中等度以上の弁膜症が有意に多く(50%対20%、P = 0.006)、CTにおける左室ECVは同群で優位に高かった(36.6 ± 6.0% 対 33.1 ± 3.7、P = 0.0018)。これら3項目について単変量Cox比例ハザード解析を施行したところ、ECVのみが主要心有害事象に関する有意な予後予測因子だった(ハザード比 1.08: 95%信頼区間1.01-1.14、P = 0.01)。また、心有害事象予測のためのROC解析を追加したところ、ECVの最適閾値は31.3%となり、有害事象予測の感度、特異度はそれぞれ96%、45%となった(P < 0.001)。症例全体をこの閾値で2群に分けたところ、ECV高値群(54例)では、有意に予後不良であった(P < 0.01)。

【考察】
ECVは細胞外分画容積を定量的に評価したもので、心筋障害を示唆する線維化の程度を反映する。細胞外分画容積の増加は心筋線維化の増加を示唆し、これが低心機能や不整脈基質増加につながり、心有害事象発生の素地となったと考えられる。
 また、心エコーにおける左室駆出率や弁膜症所見は、検査時の心不全管理状態や不整脈の有無、症例の体格などによって計測値が左右され、このためにECVよりも予後予測の精度が低かったと思われた。
 CTでのECV評価のデメリットとしては遅延造影撮影による被ばくの増加や、MRIと比較した際に劣る濃度分解能がある。しかし、近年のCTの器械的進歩により、遅延造影撮影のための追加撮影の実効線量は2.89mSvと、従来の胸部CTと同等かそれ以下であることが示された。また、画質についても、低管電圧・高管電流撮影に加え、最新画像再構成法を用いることで、安定的に高い濃度分解能が得られるようになっている。

【結論】
心臓CTによる左室細胞外容積分画(ECV)は拡張型心筋症症例における主要有害心事象の予測因子となりうる。

Case Report Award

若年発症の急性心筋梗塞を認めた家族内発症をみる多発動脈狭窄および多発動脈内血栓症の一例

増田 光1)、新井 陸1)、中島 祐樹1)、小山 裕3)、村田 伸弘1)、奥村 恭男1)、田中 正史2)、羽尾 裕之3)
1)日本大学医学部内科学系 循環器内科学分野
2)日本大学医学部外科学系 心臓血管外科学分野
3)日本大学医学部病態病理学系 人体病理学分野

症例は17歳男性、体育の授業中の痙攣発作のため前医に搬送となり、心筋逸脱酵素の上昇と心電図上でaVR誘導ST上昇と広範なST低下を認め、かつ胸腹骨盤CTで多発動脈狭窄・血栓を疑う所見が認められたため多発動脈狭窄を伴うNSTEMIとして当院搬送となった。また、本例では家族歴として4親等までに5人の突然死歴を認めた。当院搬送時には血行動態は安定していたが、造影CTにおいて両側内頸動脈、腕頭動脈、弓部大動脈、下行大動脈、腹部大動脈、腹腔-上腸間膜動脈共通管に低吸収域の占拠性病変があり、腹部大動脈はびまん性に狭小化していた。心臓CTではLMT、LAD近位部と中間部、RCA遠位部に高度狭窄、さらには左内胸動脈にも高度狭窄を認めた。多職種カンファレンスにおいて治療方針を協議し、第8病日時点で本疾患の病態として炎症や血栓の関与が否定的であること確認し、CABGを施行した。術後経過良好のため第24病日に退院となった。
その後、術中の左内胸動脈の病理所見から狭窄病変内部は膠原線維と平滑筋細胞の増殖を認め、非炎症性、非粥状硬化性の内膜増殖であり線維筋性異形成(FMD: fibromuscular dysplasia)の診断に至った。本例は、家族歴から常染色体優性遺伝形式が考慮されるが、血管型エーラス・ダンロス症候群やMarfan症候群など多発血管狭窄を示す疾患群に特異的な遺伝子検査は陰性であった。家族内発症をみるFMDとして、多因子遺伝の報告があり、現在遺伝子検査を追加で検討している。
本例は、確定診断に至るまで時間を要したが、多職種カンファレンスにて病態に準じた救命処置を行い、救命し得た家族内発症をみるFMDの一例であった。

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