第263回関東甲信越地方会 受賞演題一覧(2022年2月26日開催)
第263回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2022年2月26日開催)
Student Award
医学生による一次救命処置普及活動の効果と課題
佐波 稜太1)、松本 博人1)、石田 悠太朗1)、上野 仁大1)、奥山 裕貴1)、佐藤 梨音1)、辻 未来香1)、
友田 博之1)、黄 世捷2)、3)、出雲 昌樹2)、石橋 祐記2)、明石 嘉浩2)
1)聖マリアンナ医科大学医学部医学科4年
2)聖マリアンナ医科大学 循環器内科
3)聖マリアンナ医科大学 医学教育文化部門
【背景および目的】
心肺停止患者に対する気道確保・換気、胸骨圧迫、自動体外式除細動器(AED)を用いた一次救命措置(Baslic Life Support:BLS)は、臨床実習前に習得する必要がある。本学ではOSCEに先駆け、1年次に早期体験実習を通じて市民救命士の資格を得ることができたが、COVID-19蔓延により、2020年度以降の後輩は救命措置を学ぶ場を得られていない。
聖マリアンナ医科大学の学生を対象とした蘇生に関するアンケートでは、回答者の約7割が蘇生講習受講歴があるにも関わらず、同じく約7割の学生が”蘇生に自信がない”と回答した。殊に「胸骨圧迫」に対しては回答者全員が”不安がある”と回答し、「呼吸の確認」と「AED」についても”不安がある”との回答がみられた。COVID-19の影響により低学年での蘇生講習実習の機会が失われていることを踏まえ、学校のカリキュラム外で、胸骨圧迫の実践と本物のAEDに触れる場が必要であると考え、学生による普及活動を行った。
日本循環器学会が監修するe-ラーニング教材「AEDサスペンスドラマゲーム心止村湯けむり事件簿」の視聴、ポスターによる啓蒙、オンラインクイズ、胸骨圧迫の簡易的な講習の実施を行った。本発表では、これらの普及活動の効果と課題について報告した。
【方法】
聖マリアンナ医科大学の学生6人を対象に、一次救命処置の体験会を開催した。その後の実践をより現場に即したものと認識させられるよう、学内で人が倒れたという状況設定で、指導者と参加者の両者参加型の蘇生に関するロールプレイを行った。その上で、一連の対応・処置のデモンストレーションの後、少人数に別れて、蘇生処置マニュアルを確認しながら実際に救命処置の実践を行った。知識の修得や定着のため、Gamificationの要素としてオンライン投票型クイズKahootを取り入れた。また、医師の監督下で、学生教育棟内に設置された実際のAEDを取り出し、中身を確認するイベントを行った。
体験会後、受講生を対象としたアンケートでは全員から“胸骨圧迫の自信が付いた”との回答を得ることが出来た。
その要因として、ゲーミフィケーションの要素を導入したことで、誰でも参加しやすく達成感を得られたためだと考えられた。二次的な効果として、指導を担当した学生自身の学習の振り返りにも繋がった。学生主体の講習会は、COVID-19蔓延下で減少していた学年間交流の場にもなる。
【課題・提言】
今後講習会を拡大・継続する上で、高度な機材が使用できない場合も考慮される。その場合は、ペットボトルによる胸骨圧迫の練習や、ペーパークラフトのAEDで代用可能である。COVID-19蔓延下における先生方の臨床と教育の負担が増加しているが、今回の講習会のような形で、我々スチューデントドクターも学生教育活用いただくことを是非お考え頂きたい。教員の負担軽減だけでなく、医学生にとっても近い将来の臨床現場で活かせる学びになるものと考えられる。
Resident Award
右室流入路の圧排から心原性ショックに至った心臓腫瘍に対しCTガイド下針生検が診断に有用であった一例
大塚 真理子1)、髙橋 徳仁2)、遠藤 裕久2)、藤田 航2)、高須 清2)、内藤 亮2)、土肥 智貴2)、
岩田 洋2)、南野 徹2)
1)順天堂大学医学部附属順天堂医院 臨床研修医
2)順天堂大学医学部附属順天堂医院 循環器内科
【背景】心臓原発悪性リンパ腫は原発性心臓腫瘍の約1%、悪性リンパ腫の約0.5%と稀な疾患である。近年では分子標的薬を含む化学療法の早期導入によって生存率が向上しており、組織診断を早期に行うことが重要である。
【症例】症例は77歳男性。生来健康な患者で8か月前から持続する労作時呼吸困難、間欠熱を主訴に当院を受診した。心臓超音波検査で心嚢液貯留と右房右室間に異常構造物を認め(図1-A)精査加療目的に入院となった。心電図同期下造影CT検査では房室間溝に沿って右室自由壁に広がる腫瘤を認め、腫瘤は右冠動脈を末梢まで全周性に取り囲んでいるものの右冠動脈内腔は保たれており末梢まで描出されていた(図1-B)。心臓MRI検査では分葉状の腫瘤を認め、腫瘤部分の隔壁を中心に不均一な遅延造影像を認めた(図1-C)。その他各種画像検査から心臓原発悪性リンパ腫が疑われた。心外の生検部位を検出するために施行したPET-CT検査では心臓腫瘤に一致して有意な集積を認めるものの、他臓器には有意な集積を認めなかった。心嚢液の病理学的検査においても悪性リンパ腫の診断に至らなかったため、心臓腫瘤からの組織生検を予定した。しかし、3週間の経過で労作時呼吸困難が急速に増悪し、再度施行した造影CT検査では腫瘤の急速な増大及び右室流入路、右室内腔の狭小化を認めた。小開胸による組織生検を予定していたところ、ショック、循環不全状態に陥ったため、全身麻酔が必要な開胸生検は困難と判断し、局所麻酔下でCTガイド下針生検を施行した。病理組織からびまん性大細胞性B細胞リンパ腫の診断に至り、速やかに化学療法を開始した。腫瘍径の縮小と共に循環動態が安定し退院された(図1、D-F)。
【考察】悪性リンパ腫は化学療法を早期に導入することで予後の改善が期待できる疾患である。組織採取に関して関連科で協議を行い、開胸による組織診断は免疫抑制薬を含む根治的化学療法の開始を遅らせる可能性が、経静脈的腫瘍生検では腫瘤周囲の血栓や壊死組織によって偽陰性となる可能性があることが問題視された。一方、CTガイド下針生検は内胸動脈や冠動脈を損傷するリスクを有するものの局所麻酔下で施行することができ、且つ腫瘍中央部からの確実な組織生検が可能である。本症例は急速な腫瘍増大で右室流入障害から循環不全状態にあり、開心術による組織生検は全身麻酔導入時に循環動態が破綻することや、開胸に伴い化学療法の導入が遅れる可能性が高いと判断した。致死的状態での全身麻酔下の開心術を回避し、安全な検体採取と迅速な化学療法導入によって救命しうることが可能であった。早期の化学療法導入が重要となる心臓原発悪性リンパ腫においてCTガイド下針生検の有用性を支持する一例であった。
図1
Clinical Research Award
エドキサバン内服中の非弁膜症性心房細動患者における腎機能別抗Xa活性解析
小野 亮平1)、2)、福島 賢一1)、高橋 秀尚2)、堀 泰彦2)、小林 欣夫1)
1)千葉大学大学院医学研究院 循環器内科学
2)松戸市立総合医療センター
【背景】直接Xa因子阻害薬は非弁膜症性心房細動(NVAF)と静脈血栓塞栓症に適応があり広く用いられている。従来より経口抗凝固薬として使用されているワルファリンはプロトロンビン時間を指標としてモニタリングを行うが、直接Xa因子阻害薬では採血によるモニタリングは不要とされている。一方で直接Xa因子阻害薬の効果指標の一つに抗Xa活性(AXA)があり、直接Xa因子阻害薬血中薬物濃度と高い相関を示すことが知られており、モニタリングとして使用できる可能性がある。米国においてエドキサバンはクレアチニンクリアランス(CrCl)>95mL/minでは使用が推奨されていないが本邦では使用が可能であり、腎機能別のAXAについてこれまで詳細な解析はなされていない。
【目的】エドキサバン内服中NVAF患者における腎機能別のAXAを解析する。
【方法及び結果】本邦の添付文書用量通りにエドキサバン内服中のNVAF患者93名に対して、AXAをトラフ(内服前)・ピーク(内服2時間後)で測定し、腎機能別に3群(15≦CrCl≦50ml/min(重度低下群38例)、50<CrCl≦95ml/min(軽度低下群39例)、CrCl>95mL/min(正常群16例))に分けて比較した。エドキサバン30mgのトラフAXAは、正常群(0.12±0.08 IU/mL)と軽度低下群(0.16±0.12 IU/mL)が重度低下群(0.28±0.26 IU/mL)に比較して有意に低値であった(P=0.03、P=0.02)。エドキサバン60mgのトラフAXAは、正常群(0.14±0.10 IU/mL)が軽度低下群(0.26±0.13 IU/mL)より有意に低値であった(P=0.03)。ピークAXAは、30mg・60mgともに腎機能別で有意差は認めなかった。またCrClとAXAはトラフで負の相関を認める傾向にあった(30mgにおいて相関係数-0.22、p=0.07、60mgにおいて相関係数-0.62、p<0.01)が、ピークでは相関を認めなかった。
【結論】エドキサバン内服心房細動患者において、トラフでは腎機能正常群は低下群に比較してAXAが有意に低値であり、CrClが95mL/minを越す場合に有効性へ影響を及ぼしている可能性が示唆された。
Case Report Award
侵襲的冠生理学的評価を基にした治療が奏功したMINOCAの一例
吉川 宏1)、村井 典史1)、津野 航1)、矢野 弘崇1)、伊藤 徳彦1)、飯谷 宗弘1)、
菱刈 景一1)、高橋 淳1)、疋田 浩之1)、笹野 哲夫2)
1)横須賀共済病院 循環器内科
2)東京医科歯科大学医学部附属病院 循環器内科
【背景】
近年冠動脈造影検査時に施行できる冠生理学的評価は、心筋を灌流する冠微小循環を含めた様々な心筋虚血の病態の評価に利用できるようになっている。その評価を基にした個々の患者に適した治療の選択が症状改善、QOL向上につながることが報告され、1) 日常臨床への浸透が期待されている。一方、冠動脈に有意な狭窄を認めない心筋梗塞であるMINOCA(myocardial infarction with non-obstructive coronary arteries)も様々な病因により生じることが知られているが、2) その原因検索の一環として冠動脈造影検査時にアセチルコリン負荷試験とその前後で冠生理学的な微小循環の状態を評価した報告は今まで無い。
【症例】
不安神経症として治療されている75歳女性。胸痛発作に対して複数の病院で精査されるも心筋虚血は否定されていた。胸痛と著明な高血圧を伴うパニック症状のため当院救急外来へ搬送され、搬送時の心電図で下壁誘導でST低下・側胸部誘導での陰性U波と高感度トロポニンI(0.093 ng/dL)の上昇を認めた。急性冠症候群を疑い冠動脈造影検査を施行したが有意狭窄を認めず冠生理学的検査による評価を行った。冠微小循環の抵抗値である微小循環抵抗指数(index of microvascular resistance ; IMR)は硝酸薬投与前は36Uと高値を示し、続いて行ったアセチルコリン負荷試験では心外膜側血管の攣縮は認めなかったが、胸痛と心電図変化が再現された。硝酸薬冠注後に症状と心電図変化は消失しIMRは13Uと著名な低下を認めた。以上の結果より本症例の病態はmicrovascular spasmとパニック発作による高血圧に起因するMINOCAと考えられた。それに対する治療としてベニジピンとニコランジルの投与を開始し症状の改善が得られ、最終的には硝酸イソソルビドとビソプロロールを追加し、パニック発作時にも心筋虚血を示唆する他覚的所見も消失した。
【考察】
本症例ではアセチルコリン負荷により微小循環の攣縮と考えられたが、負荷前のIMRはすでに高値を示しており、硝酸薬投与後に正常範囲まで低下した。血管内皮由来のNO(Nitric oxide)の制御を受ける比較的大きな血管の内皮の機能的な障害が推測され、構造的な微小循環障害の合併がないことを示唆していた。それを基に本症例に適すると考えられる投薬を選択することにより、実際に患者の症状の改善を得るに至った。本症例のように胸痛発作を度々訴えるが冠動脈に有意狭窄が無い場合、症状は非心原性、もしくは心因性と扱われることが少なくない。冠動脈の狭窄の有無だけでなく、冠生理学的検査などを駆使してさらに踏み込んで病態を把握することが今後の虚血性心疾患治療に必須と考えられる。それは薬理学的作用から病態を改善するだけでなく、診断がついたことに対する安心感や、疾病への理解の促進といった心理学的作用からも患者のQOLを改善しうる。
参考文献
- Thomas J. Ford et al. The CorMicA Trial. JACC VOL. 72, NO. 23, 2018 DECEMBER 11, 2018:2841–55
- Giancarla Scalone et al. European Heart Journal: Acute Cardiovascular Care 2019, Vol. 8(1) 54–62