情報・広報・啓発委員会より

第262回関東甲信越地方会 受賞演題一覧(2021年12月4日開催)

受賞演題一覧

第262回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2021年12月4日開催)

Student Award

現病歴を用いた自然言語処理~人工知能による冠攣縮性狭心症の診断の試み

清原 悠嵩1)、小寺 聡2)、仁宮 洸太2)、澤野 晋之介2)、勝然 進2)、篠原 宏樹2)、皆月 隼2)
菊池 宏信2)、東邦 康智2)、藤生 克仁2)、安東 治郎2)、赤澤 宏2)、小室 一成2)
1)東京大学医学部医学科6年
2)東京大学医学部附属病院 循環器内科

【背景】
冠攣縮性狭心症(CSA)の標準治療は薬物治療であり、現病歴などの患者情報から適切にCSAを疑うことが重要である。近年、現病歴の分析に必要な自然言語処理の人工知能(AI)が急速に発展している。

【目的】
UTH-BERTを用いて、患者情報からCSAを診断するAIモデルを作成すること。

* UTH-BERT:日本語で記載された大量のカルテ情報を用いて事前学習がすでにされた自然言語処理モデル

【方法】
データは、2000年から2021年までのOpen access journalと日本内科学会地方会の演題抄録を用いた。CSAとその他の冠疾患の2つの症例(合計649例)を対象とし、学習用とテスト用に9:1に分けた。UTH-BERTを用いて、学習用データで重みの微調整を行ったのち、テスト用データでAIモデルの精度評価を行った。続けて、医学生と循環器内科専門医に協力してもらい、テスト用データについてCSAか否かを判定する実験を行い、AIモデルと人の精度を比較した。

【結果】
AIモデルの精度は、正解率は7割弱、感度は9割弱だった。ROC曲線から求めたAUCは、AIモデルでは7割強だった。人との比較では、AIモデルの精度は医学生と同等だった。(下図)

【考察・結論】
今回作成したAIモデルが患者情報からCSAの特徴を読み取ったと考えられる。また、今回のモデルの精度が循環器内科専門医に及ばなかったことの理由としては、用いたデータが雑誌もしくは学会にて発表された症例であり、特殊な症例が多かったので学習が進まなかったことが挙げられる。今後より多くのデータをもとに学習させることで、より精度の高いモデルの作成が可能になると考えられる。今後、自然言語処理AIが実臨床において有用となる可能性がある。

ROC曲線/AUCについて

Resident Award

肺高血圧症を伴う虚血性心筋症に対し骨格筋芽細胞シート移植を行った一例
南学 正仁1)、小前 兵衛1)、角田 昇隆2)、尭天 孝之1)、星野 康弘1)、安藤 政彦1)、嶋田 正吾1)
網谷 英介2)、木下 修1)、山内 治雄1)、波多野 将3)、小室 一成2)、小野 稔1)
1)東京大学医学部附属病院 心臓外科
2)東京大学医学部附属病院 循環器内科
3)東京大学大学院医学系研究科 重症心不全治療開発講座

【背景】
虚血性心筋症による重症心不全に対する再生医療として、2015年から骨格筋芽細胞シート移植が開始されており、心機能の維持や心不全の進行を予防する効果が期待されている。

【症例】
症例は48歳男性。X-6年に急性心筋梗塞を発症し、前医にて経皮的冠動脈インターベンションを施行されたが、その後も心不全入院を繰り返していた。X-3年に当院紹介となり、骨格筋芽細胞シート治療を検討したが、肺高血圧症を合併しているため(肺血管抵抗 6.28 wood)に見送られ、外来で心不全加療が継続されていた。X年、肺高血圧が改善傾向(肺血管抵抗 5.84wood, 酸素投与後 4.67wood)であり、再度検討の結果、骨格筋芽細胞シート治療を行う方針とした。骨格筋芽細胞シート移植時のNYHAはⅢ度で左室駆出率は19%だった。
肺高血圧症を合併しているため、循環動態を安定させる工夫として、あらかじめ大動脈内バルーンパンピング(IABP)を留置し、細胞シート移植操作に伴う片肺換気時には一酸化窒素を吸入させた。結果として、特に合併症を発症することなく手技を完了できた。術後経過も良好で術後11日目に独歩退院となった。移植後6カ月時点で心不全入院なく経過しており、BNP値、左室駆出率、平均肺動脈圧、肺血管抵抗は改善傾向であり、治療に反応したと考えられた。

【考察】
肺高血圧症を伴う虚血性心筋症は、骨格筋芽細胞シート移植の慎重適応とされているが、酸素投与により肺血管抵抗が改善することを確認して実施した。本症例では、肺高血圧症合併以外は骨格筋芽細胞シート移植治療の適応を満たしていたが、IABP留置、一酸化窒素吸入を行うことで安定した循環動態を維持しつつ、有害事象なく細胞シート移植を行うことができ、移植後半年の段階では、特に合併症なく経過し、治療効果があると考えられた。肺高血圧合併例でも、治療反応性のある症例に対しては、骨格筋芽細胞シート移植治療の良い適応となる場合があると考えられる。

肺高血圧症

Clinical Research Award

左室駆出率が改善した心不全患者において拡張機能障害の残存が予後不良因子となる

髙田 卓磨1)、松浦 勝久1)、2)、岸原 誠3)、渡邊 正之介4)、城谷 翔太5)、阿部 拓朗6)
吉田 彩乃1)、重城 健太郎7)、南 雄一郎1)、萩原 誠久1)
1)東京女子医科大学 循環器内科
2)東京女子医科大学 先端生命医科学研究所
3)済生会支部 恩賜財団 社会福祉法人 埼玉県済生会栗橋病院 循環器科
4)東京女子医科大学 八千代医療センター 循環器内科
5)公益財団法人 東京都保健医療公社 多摩北部医療センター 循環器内科
6)西新井ハートセンター病院 循環器内科
7)東京女子医科大学 東医療センター 心臓血管診療部

【背景/目的】
左室駆出率(LVEF)が改善した心不全患者(HFrecEF)は改善していない患者と比較し予後良好との報告が散見される。一方で拡張型心筋症患者においてLVEFが改善したとしても薬物療法を中止すると再燃することが知られており、LVEFの改善した心筋と健常心筋が異なることを示唆する。LVEFの改善した心筋の機能特性を検証するために、我々の施設では、ヒトiPS細胞由来心筋シート組織を用いた機能評価を行った。作成した心筋組織は低酸素化で収縮力が低下し、再酸素化すると改善した。興味深いことに収縮力が改善した心筋でも弛緩障害が遷延することが分かりこれらはHFrecEFの特性を示唆するのではないかと考えた。これらの知見を踏まえHFrecEF患者の中に拡張障害を伴う予後不良患者群が含まれていると仮説を立て、今回、HFrecEF患者のLVEF改善時点での拡張障害と予後との関係を調査した。

【方法】
2013年から2018年に当院にてLVEFの低下した心不全(HFrEF)と診断され生存退院した患者のうち、1年後にHFrecEFと診断された患者を後方視的に調査した。主要評価項目は退院1年以降の心血管死亡と心不全再入院とし、退院1年時の拡張機能評価でROC曲線を作成し、曲線下面積(AUC)が最も高い項目で群別比較検討した。

【結果】
全体のHFrEF患者のうち30%が退院1年後にHFrecEFと診断された。主要評価項目に対する退院1年時点での拡張機能評価(E/e'、左房容積係数、三尖弁逆流最大血流速度)のうち、AUCが最も高いE/e'のCut-off(12.1)を群別に用いた。カプランマイヤー曲線は、E/e'高値群が予後不良であることを示し、年齢、性別を調節しても同様の結果であった。退院時のE/e'を含め単変量ロジスティック解析で有意差があった項目を用いて多変量解析を施行すると退院1年後にE/e'高値となる退院時予測因子は年齢と女性であった。

【結論】
HFrEFにて退院した高齢・女性患者は、退院1年後にHFrecEFに移行してもE/e'が比較的高値になり予後不良である。HFrecEF患者の予後層別化と予後不良群に対する綿密なフォローアップならび新規治療戦略を検討する必要がある。

Case Report Award

胸痛の鑑別に苦慮し、最終的に心膜外脂肪壊死の診断に至った一例

権田 勇樹、堀内 優、阿佐美 匡彦、矢作 和之、湯澤 ひとみ、小宮山 浩大、田中 旬、
青木 二郎、田邉 健吾
三井記念病院 循環器内科

【症例】

症例は74歳女性。吸気時に増強する左前胸部痛を主訴に当院を受診した。心電図では明らかなST-T変化を認めず、血液検査では白血球9400/μL、CRP4.35mg/dLと炎症反応の上昇を認めた。経胸壁心エコーでは心膜液の貯留はなく、左室収縮能は正常に保たれていた。冠動脈CTでは有意狭窄なく、胸腹骨盤部造影CTでは肺血栓塞栓症や大動脈解離は否定的であったが、左前縦隔に内部脂肪濃度の腫瘤性病変および隣接する心膜の肥厚を認めた。胸部MRIではT1・T2強調像で高信号、脂肪抑制画像で内部低信号であり、腫瘤の辺縁に造影効果を認めた。膿胸や心膜炎、胸膜炎、脂肪腫、脂肪肉腫などを念頭に、まずは感染を考慮して抗菌薬での加療を行いつつ、腫瘍の可能性も考慮し生検を検討していた。その後も感染を積極的に疑う所見は得られなかったため、抗菌薬を終了したが、経時的に炎症反応は低下し、病変は縮小傾向であった。上記鑑別疾患のいずれにも該当しない経過であり、文献検索を進めたところ、類似したケースにたどりついた。急性の胸痛で発症した卵形脂肪濃度病変であり、経過も合わせて心膜外脂肪壊死と診断した。その後も経過観察のみで炎症反応は改善し、病変は縮小した。

【考察】

心膜外脂肪壊死は、急性の胸痛、被包化された卵形脂肪濃度病変、隣接する心膜の肥厚を3徴とする良性疾患である。病変は左側の縦隔脂肪に好発し、体動や深呼吸によって増悪する胸痛が典型的である。原因としては、血管茎の捻転や心近傍の脂肪組織の脆弱性などが指摘されているが、正確な原因は明らかになっていない。以前は悪性疾患が疑われ外科手術が多く行われていたが、2005年にPinedaらが自然軽快した症例を報告してからは保存的加療が一般的になっている。救急外来でCTを施行され、かつ胸痛があった患者426例のうち、2.6%にあたる11例が本疾患であったとの報告もあり、十分に遭遇しうる疾患である。特徴的な画像所見で診断可能かつ、自然軽快する良性疾患であり、胸痛の診療にあたることの多い循環器医は鑑別疾患の一つとして考慮する必要がある。

胸部単純CT

Basic・TranslationalResearchAward

副甲状腺ホルモンの肺高血圧症へ与える役割の解明

上木 裕介、高須 清、小西 博応、南野 徹
順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科学講座

【背景】
肺高血圧症(PH)は慢性かつ進行性の難病であり、未だ詳細な病態が解明されていない疾患群である。副甲状腺ホルモン、パラトルモン(PTH)は骨代謝制御を行うホルモンだが、心筋や血管平滑筋細胞に直接的な作用を有し血中PTH濃度が心血管疾患イベントと相関を示すことが分かっている。本研究ではPTHがPH与える影響を検討した。

【方法】
臨床検討ではPHが疑われ右心カテーテルを施行した症例の血中PTH濃度を測定し、右心系の血行動態との関連性を解析した。基礎検討では低酸素誘発PHマウスにPTH投与を行い、右室負荷の変化を検討した。またSugen/Hypoxia(SuHx)ラットに副甲状腺摘出術(PTx)を施行し、右室負荷への影響を検討した。またPTH受容体(PTH1R)の肺組織内局在について蛍光染色法を用いて解析した。細胞実験では肺動脈平滑筋細胞(PASMC)にPTH投与を行い、直接作用について検討した。

【結果・考察】
28症例の解析を行ったところ、血中PTH濃度は肺血管抵抗、平均肺動脈圧と有意な正の相関関係が認められた。またROC解析により血中PTH濃度が48pg/ml以上で、高い精度をもってPHを診断できる事が分かった(図1)。基礎領域ではPTH投与により低酸素誘発PHマウスの右室収縮期圧は増大し、右室/左室+中隔心筋重量比(Fulton index)も増大していた(図2)。またPTxにより血中PTH濃度が減少するとSuHxラットの右室収縮期圧上昇やFulton index増悪の抑制効果を認めた。PTH1Rの肺組織内の局在を検討したところ、肺動脈平滑筋層に多く存在することが確認された(図3)。またPASMCにPTHを投与すると細胞内ERKのリン酸化やCa濃度を上昇させ、細胞増殖や遊走能の亢進が認められた(図4)。このことからPTHがPASMCに直接作用し、PHへ関与している可能性が示唆された。今後PTHの制御が新規PH治療戦略への応用につながる事が期待される。

図1-図4

Women'sResearchAward

歯周病菌の感染が心筋梗塞マウスモデルの病態に及ぼす影響とその分子機序の解明

渡辺(始平堂)由佳、前嶋 康浩、田村 夏子、中釜 瞬、米津 太志、笹野 哲郎
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 循環制御内科学

【背景・目的】
世界最多の細菌感染症である慢性歯周炎の起因菌の中でも最も病原性の高い細菌のひとつであるPorphyromonas gingivalisP.g.)はシステインプロテアーゼであるジンジパイン(Gp)を放出することで病原性を発揮している。P.g.は細胞内の病原体分解システムであるゼノファジーを回避することにより細胞内に長く寄生できる。慢性歯周炎の存在が心血管疾患の発症や病状進展と密接に関連していることは多くの研究グループから報告されている。我々もP.g.が心筋細胞に侵入して梗塞後心筋の脆弱性を高めていることを発見し、P.g.が有するゼノファジーを回避する仕組みが心筋細胞のオートファジーのシステムをも抑制し、心筋にダメージを与える可能性を示唆する所見を見出した。しかしP.g.がオートファジーを制御する詳細なメカニズムはほとんどわかっていない。かかる背景を踏まえて、「歯周病原細菌の感染が心筋梗塞の病態に及ぼす影響とその機序を解明すること」を目的とした研究を行った。

【実験方法・成果】
① 歯周病原細菌感染が心筋細胞に与えるダメージの検討
H9C2細胞にP.g.野生株またはP.g. Gp欠損株を感染させ、細胞生存アッセイを行った結果、P.g.野生株を感染させたH9C2細胞では、P.g. Gp欠損株を感染させたH9C2細胞と比較してダメージがより顕著であることが判明した。
② 歯周病原細菌感染によるオートファジー抑制の検討
オートファジー検出蛍光プローブを導入した培養心筋細胞にP.g.を感染させた上で共焦点顕微鏡にてオートファゴソームおよびリソソームを検出・定量してP.g.のオートファジーに及ぼす影響を検討した。その結果、P.g.を感染させた培養心筋細胞ではオートファゴソームとリソソームの融合が阻害されていることを見出した。
③ 歯周病原細菌感染によるオートファジー抑制の分子メカニズムの解明
オートファゴソームとリソソームの融合を制御するタンパクVAMP8のFlag-taggedリコンビナントタンパクをGpと反応させたところ、VAMP8が切断・不活性化された。その一方、gingipain切断部位のアミノ酸を置換したVAMP8変異体にGpを添加してもこの変異体タンパクは切断されなかった。
④ 歯周病原細菌感染がオートファジー抑制を介して心筋梗塞の病態へ与える影響の検討
野生型マウスにカルボキシメチルセルロース(CMC)に懸濁したP.g.野生株、P.g. Gp欠損株、あるいは対照群としてCMCのみを経口投与したのち、心筋梗塞モデル(MI)を作成して28日後の生存率を検討したところ、P.g.野生株投与群における死亡率が有意に高く、その主な死因は心破裂であった。さらにゲノム編集技術により作成したVAMP8-K47AノックインマウスのP.g.野生株感染MIマウスでは心破裂による死亡率が低下傾向であった。
⑤ 生体内におけるオートファジー活性の検討
P.g.の感染した生体の心筋におけるオートファジー活性を調べるために、オートファジー活性測定プローブタンパクを発現するマウスを用いて心筋組織を蛍光組織化学的に評価した。その結果、無感染の飢餓状態マウスと比較してP.g.を経口投与した飢餓状態のマウスの心筋ではオートファジー活性が有意に低下していた。

【結論】
歯周病原細菌P.g.から放出されるGpがVAMP8を切断・不活性化することでオートファゴソームとリソソームの融合を阻害し、オートファジー制御不全を惹起して心筋梗塞の病態を悪化させる、というメカニズムを見出した。

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