第260回関東甲信越地方会 受賞演題一覧(2021年6月19日開催)
第260回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2021年6月19日開催)
Student Award
イプシロン波は不整脈源性右室心筋症で出現し、肺高血圧で出現しないのか?
両疾患の病態相違の文献的考察
冨田 大樹1)、田中 未都1)、岡本 昌大1)、船橋 伸禎2)、小澤 公哉2)、小林 欣夫2)、田邉 信宏3)、
巽 浩一郎3)、中村 紘規4)、佐々木 健人4)、内藤 滋人4)
1)千葉大学 医学部 医学科
2)千葉大学 医学部 循環器内科学
3)千葉大学 医学部 呼吸器内科学
4)群馬県立心臓血管センター 循環器内科
【背景】
イプシロン波はV1-3誘導のQRS波の後に出現する小振幅波形で、右心室心筋が進行性に脂肪線維組織に置き換わる不整脈源性右室心筋症(ARVC)に特徴的とされ、その存在は心室頻拍に関連する右室内の伝導遅延を示すとされる. ARVC以外の疾患、たとえば心筋梗塞、肺高血圧症、サルコイドーシスでも認められることがあるとされている。
そこで我々のグループは上記より肺高血圧症におけるイプシロン波の発生頻度を調査し、第85回日本循環器学会学術集会で発表した。CTで右室肥大、右室線維化を示す肺高血圧症でイプシロン波は検出されず、右室拡大、右室脂肪変性をきたすARVCより有意に低値であることが分かった。
【目的】
肺高血圧症とARVCにおいて、有意にイプシロン波の検出に差が出た結果について、第85回日本循環器学会学術集会の発表において考察が不十分であったため、文献による考察した。
【方法】
今回は、心筋梗塞、肺高血圧症、サルコイドーシスで発生するイプシロン波についてPubMed(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/)にて文献調査で考察した。また、イプシロン波の発生するARVCとの比較を行った。
【結果】
イプシロン波は通常見られない心電図所見で、ARVC以外の病理状況、急性の右室や左室下壁、後壁梗塞などで見られる可能性がある。しかしこれら急性冠症候群でのイプシロン波の実際の頻度は、イプシロン波が低振幅で、経験の少ない医師では気付かれないので、評価が難しい。失神が合併したイプシロン波が検出例では、電気生理学検査が有用である。
心サルコイドーシスとARVCは共通の病理生理学的性質を有するため、心サルコイドーシスはイプシロン波を呈することがある。しかし、これらの鑑別は臨床像だけでは難しく、心内膜下生検が有効である。
肺高血圧とイプシロン波は関係があるという論文は今回の文献調査では見つからなかった。
【結語】
我々の研究は右室肥大、線維化など器質的な右室変性を心臓CTで確認できた肺高血圧症で、ARVCで高頻度で検出できたイプシロン波が同じ不整脈専門医の読影で検出できないことを確認できた。
心サルコイドーシスとARVCは共通の病理生理学的性質を有するため、特に右室浸潤をきたす心サルコイドーシスはイプシロン波を呈することがあり、また急性の右室や左室下壁、後壁梗塞などでもイプシロン波が見られる可能性がある。
イプシロン波は低振幅で、経験の少ない医師では気付かれないので、評価が難しい。しかしイプシロン波は心室頻拍につながる可能性が高く、失神が合併したイプシロン波検出例では、電気生理学検査が有用である。今回のnegativeな結果は肺高血圧では右室が変性してもイプシロン波のチェックが必ずしも必須でないとの結論になると考えた。
【参考文献】
Aldakar M, et al. Association of an epsilon wave and syncope. Presse Med 1998;27:1893-6
Zorio E, et al. The presence of epsilon waves in a patient with acute right ventricular infarction Pacing Clin Electrophysiol 2005;28:245-7
Nery PB, et al. Isolated cardiac sarcoidosis: establishing the diagnosis with electroanatomic mapping-guided endomyocardial biopsy. Can J Cardiol. 2013;29:1015.e1-3
Khaji A, et al. Mega-epsilon waves on 12-lead ECG--just another case of arrhythmogenic right ventricular dysplasia/cardiomyopathy? J Electrocardiol. 2013;46:524-7
Vasaiwala SC, et al. Prospective study of cardiacsarcoid mimicking arrhythmogenic right ventricular dysplasia.J Cardiovasc Electrophysiol 2009;20:473
Asimaki A, et al. Altered desmosomal proteins in granulomatous myocarditis and potential pathogenic links to arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2011; 4(5):743-52.
Asimaki A, et al. A new diagnostic test for arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy. N Engl J Med. 2009; 360(11):1075-84
Resident Award
左下肢の多発動静脈奇形(クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群)により高心拍性心不全をきたした一例
岩住 衣里子1)、岡本 陽2)、菊池 華子2)、渡邊 貴之2)、竹内 真介2)、竹内 かおり2)、伊波 巧2)、
合田 あゆみ2)、副島 京子2)、尾崎 峰3)、黒木 一典4)、小野澤 志郎4)、横山 健一4)
1)杏林大学付属病院 臨床研修センター
2)杏林大学医学部 循環器内科
3)杏林大学医学部 形成外科
4)杏林大学医学部 放射線科
【症例】
幼少期に他院で左下腿の多発動静脈奇形に対して、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群と診断され、他院で10回程度、経皮的動脈塞栓術(TAE)を施行されていた。20XX-2年に当院形成外科へ紹介となり通院していたが、20XX年5月頃から労作時の呼吸困難が出現し、6月上旬には起坐呼吸、起床時の顔面浮腫が出現した。6月中旬に当科を紹介受診し、胸部レントゲンでは心胸郭比67%と著名な心拡大をみとめ、心臓超音波検査では両心房の拡大、右室による心室中隔の圧排像、心嚢液の貯留を認めた。3DCT-Venographyでは浅大腿動脈に瘤状拡張が多数みられ、大腿静脈に流入していた。右心カテーテル検査では、平均肺動脈圧(mPAP)は28mmHg、心拍出量(CO)は13.5L/min、酸素飽和度サンプリングでSaO2-SvO2が99-96%と下大静脈の動静脈シャント量の増大が示唆され、高心拍出量による肺循環障害、心不全と診断した。利尿剤投与により、浮腫の軽減や呼吸苦の改善を認めたが、今後の心不全進行の抑制と予後改善のためには、動静脈シャント量の減少が必要であると判断し、TAEによる動静脈シャント血流の減少と左下肢動静脈瘻部分摘出術を施行した。術後は胸部レントゲンで心胸郭比が67%から60%と心拡大が改善し、右心カテーテル検査では、CO 6.4mL/minと心拍出量の減少とSaO2-SvO2が96-78とシャントの減少を示唆する所見を認めた。
【考察】
クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群は片惻の単純性血管腫、二次性静脈瘤、四肢の片惻肥大を古典的3兆とし、日本で約3000人程度が罹患している指定難病である。治療の主体は血管病変への塞栓術、レーザー治療、外科的治療である。およそ、30%程度に本症例のような動静脈シャントにより高心拍出性心不全を合併するとされるが、治療法については下肢切断以外の保存的治療については明記された報告はない。本症例では、血管内治療による動静脈奇形の塞栓術と外科的動静脈瘻切除により、シャント量の減少を得られ、下肢を温存しながら、高心拍出性心不全の改善も得られた。しかしながら、原疾患の血管腫は今後も増大することが予想され、継続的な心不全コントロールをしながら、多科との連携をはかり治療戦略を決めていくことが重要である。
左下肢の多発動静脈奇形(クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群)により高心拍性心不全をきたし、血管内治療による動静脈奇形の塞栓術と外科的動静脈瘻切除を組み合わせることにより、下肢温存しながら高心拍出性心不全の改善が得られた症例について報告した。
Clinical Research Award
肥大型心筋症患者におけるCTでのExtra-Cellular Volume解析は心室性不整脈予測に有用である
浅田 一成1)、髙岡 浩之2)、後藤 宏樹1)、高橋 愛2)、八島 聡美2)、佐々木 晴香2)、江口 紀子2)、
若林 慎一1)、金枝 朋宜1)、上田 希彦1)、佐野 剛一1)、小林 欣夫2)
1)東千葉メディカルセンター 循環器内科
2)千葉大学医学部附属病院 循環器内科
序文:MRIでのExtra-Cellular Volume(ECV)解析は肥大型心筋症(HCM)の予後予測に有用とされるが、CTによるECV解析に関する報告は少ない。今回我々はHCM患者におけるCTによるECV解析の有用性を評価した。
方法:2014年以降に冠動脈評価目的での心臓CTと、その後24時間心電図検査が行われたHCM連続20症例における、左室ECV率(%)と心室頻拍症(VT)の関係を調べた。
結果:VTを認めた13例では、他の7例より左室ECV率が有意に高かった(38±4対32±4 (%), P=0.004)。LVEF(%)や最大左室壁厚(mm)などその他の項目に関しては、両群間に有意差を認めなかった。ROC解析では左室ECV率の最適閾値が36%であり、VTの予測精度は感度85%、特異度86%だった(ROC曲線下面積0.89)。
結語:CTにおける左室ECV解析は、HCM症例における心室性不整脈予測に有用な可能性がある。
Case Report Award
心室中隔穿孔に対するIMPELLAの血行動態改善効果: Swan-Ganzカテーテルを用いた検討
岩﨑 司1)、陣野 太陽2)、荒巻 和彦1)、山根 正久1)、加藤 泰之2)
1)埼玉石心会病院 心臓血管センター 循環器内科
2)埼玉石心会病院 心臓血管センター 心臓血管外科
【背景】
心室中隔穿孔(Ventricular septal perforation: VSP)は心筋梗塞後早期に発症する合併症でありその死亡率は41~81%と高く、早期に手術を行う症例ほど予後が不良であると言われている。近年VSPに対してIMPELLLAを用いて心不全管理を行い待機的に手術を行ったという報告が多数あるが、その効果に関しては未だ不明な点が多い。
【症例】
73歳女性が亜急性心筋梗塞と心室中隔穿孔の診断で入院となった。重度の肺うっ血と進行性の血圧低下を認めていたことからIMPELLAを留置し心不全のコントロール後に待機的に手術をする方針となった。IMPELLA留置に先行して冠動脈造影を行い、左前下行枝#7の99%狭窄病変を確認した。IMPELLA留置後経時的に心不全の改善を認めたため第4病日にIMPELLAを留置した状態で手術し、第6病日にIMPELLAを離脱した。その後リハビリを行い、心エコーフォローでシャント遺残がないことを確認し第29病日に退院となった。
【考察】
IMPELLAがVSPに対して効果的である理由として、体血圧を維持すること、右心負荷を軽減すること、心筋酸素消費量を軽減させ虚血の解除に寄与することが挙げられる。今回Swan-Ganzカテーテルを用いてIMPELLA留置前後の肺動脈圧やシャント血流を計測しその変化を比較することでIMPELLAの効果を客観的に証明することができた。