情報・広報・啓発委員会より

第259回関東甲信越地方会 受賞演題一覧(2021年2月13日~15日開催)

受賞演題一覧

第259回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2021年2月13日~15日開催)

Resident Award

小腸原発神経内分泌腫瘍により短期間で劇的に進行し開心術を要したカルチノイド心疾患の一例

中嶋昭仁1)、小宮山知夏1)、太田光彦1)、山口徹雄1)、三浦裕司2)、児玉隆秀1)
1)虎の門病院 循環器センター内科
2)虎の門病院 臨床腫瘍科

【症例】
小腸原発神経内分泌腫瘍(NET)の加療経過中に下腿浮腫・全身倦怠感を認めた50歳代女性。約1年前に当院臨床腫瘍科でNETおよび多発肝転移と診断され、化学療法(ソマトスタチンアナログ)を開始したが、肝腫瘍への治療介入により投与は断続的になっていた。治療前に実施した経胸壁心エコー図検査では正常心機能で弁膜症を認めていなかった。1ヶ月前に下腿浮腫・5kgの体重増加・全身倦怠感を認め当科に紹介され、経胸壁心エコー図検査で重度の三尖弁逆流・肺動脈弁逆流を認め右心不全の診断で精査加療目的に入院となった。既往として5ヶ月前に小腸NET摘出術、多発肝転移に対して経カテーテル的動脈塞栓術を2回施行されており、また2ヶ月前に骨転移が判明していた。
入院精査の結果、尿中5-HIAA(セロトニン代謝産物)79.8mg/day(基準値1-6mg/day)と高値を認めたため、NETによるカルチノイド心疾患、それによる右心不全症状と思われた。三尖弁・肺動脈弁は共に硬化短縮しており、経食道心エコー図検査でもほとんど動きが見られなかった。両心カテーテル検査では右房CV波(RA a9/v24/M11とv波増高)あり、右房圧の右室化の所見が確認された。不可逆的な変化であるため、利尿薬による心不全加療を行なった上で外科的手術(三尖弁置換術+肺動脈弁置換術)を施行した。術後経過2ヶ月後には下腿浮腫・全身倦怠感などの右心不全症状は改善し、胸部X線写真で両側胸水の著明な改善も認めた。

【考察】
カルチノイド腫瘍の発症頻度は10万人に2-3人でありその内カルチノイド心疾患の発症は8%未満と極めて稀な疾患である。腫瘍から放出される5-HT(活性のあるセロトニン)がセロトニン受容体に作用、線維芽細胞が活性化することで心臓弁膜を線維化させると考えられている。通常モノアミンオキシターゼ(MAO)により5-HTは5-HIAAに代謝・不活化され尿で排泄される。MAOは肝臓や肺に存在するため、左心系を通る際にはセロトニンは不活化され僧帽弁・大動脈弁に弁膜症は起こりにくく、右心系の弁変性が主であり特に三尖弁閉鎖不全症が最も多い。進行因子としては①尿中5-HIAAの高値②進行病変で化学療法の既往があることが挙げられている1)。
本症例では原病のコントロールが不良であることからカルチノイド心疾患が進行した可能性が高いと思われる。カルチノイド心疾患は主に右心系の弁に発症するため、無症状のまま病状が進行している可能性があり、また本症例のように急激に進行することもある。BNPなどのバイオマーカーも右心不全では変化に乏しいため、心雑音や右心不全の症状の確認と定期的な心エコー図検査が弁膜症の早期発見に寄与する可能性がある。
・引用文献

1) Jacob E,Moller, etel, Factors Associated with Progression of Carcinoid Heart Disease. NEJM 2003;348:1005-15

Clinical Research Award

重症心筋梗塞の臨床的特徴と治療への展望

岡田 興造1)、日比 潔1)、松澤泰志1)、前島 信彦1)、岩橋 徳明1)、海老名 俊明1)、田村 功一2)
木村 一雄1)
1)横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター内科
2)横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学

背景:早期再灌流療法の有用性は確立されている一方で、日常臨床において理想とされる発症から3時間以内に再灌流が得られたにも関わらず、梗塞の進展が速く、梗塞サイズの大きい重症心筋梗塞例を少なからず経験する。

目的:本研究では重症心筋梗塞例の病態や治療を再考するために、左前下行枝近位部(AHA冠動脈セグメント#6)を責任病変とし、発症から3時間以内に経皮的冠動脈インターベンションにより再灌流が得られた初回前壁ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者を対象に、重症心筋梗塞例の臨床的特徴を明らかにした。

方法と結果:単施設、後向き観察研究にて、発症から3時間以内に再灌流が得られた初回前壁STEMI患者86例を最大CK値に基づき重症群19例(最大CK値5000 IU/L以上)と非重症群67例(最大CK値5000 IU/L未満)に分け臨床像を比較した。重症群と非重症群とで患者背景や発症から来院までの時間(73±38分 vs. 61±27分)及び再灌流時間(118±33分 vs. 104±31分)には特記すべき差がないにも関わらず、重症群では、非重症群と比べて、心筋障害の程度を表す心電図指標である来院時のQRSスコア(6±2 vs. 3±2)が有意に高く、結果として両群間の最高CK値(8067±3012 vs. 2062±1470 IU/l)に顕著な差を認めた。血管内イメージングでは、重症群において有意なプラーク破裂や超音波信号減衰を伴う脂質性プラークや粗大な血栓が高頻度に認められた(図)。

結論:早期再灌流にも関わらず重症となる心筋梗塞例では発症後短時間に不可逆的な心筋傷害が生じており、その病態には冠動脈プラーク組織性状の関与が示唆された。さらなる検討は必要であるが、重症心筋梗塞例の治療では冠動脈プラークに着目した積極的な予防管理や心筋再生医療など従来とは異なる個別の対応が必要であると考えられた。

Case Report Award

半坐位での心臓3D-CTにより胸部大動脈による右室流入路への圧排が確認されたPlatypnea-orthodeoxia syndrome(POS)の一例

長谷川 祐紀1)、和泉 大輔1)、井神 康弘1)、大久保 健志1)、八木原 伸江1)、木村 新平1)、保屋野 真1)、柳川 貴央1)、柏村 健1)、尾崎 和幸1)、佐藤 哲彰2)、中村 制士2)、大久保 由華2)、三島 健人2)
目黒 裕之3)
1)新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学
2)新潟大学大学院医歯学総合研究科 呼吸循環外科学
3)新潟中央病院 内科

POSは、臥位から立位または座位への体位変換で低酸素血症が出現する稀な病態である。心腔内や肺内のシャントが、体位変換に伴う解剖学的変化によって増強することにより生じるとされている。

症例は85歳、女性。自宅で転倒し、腰部圧迫骨折の診断で前医整形外科に入院となった。加療中、「座位にするとSpO2が低下する」ため、離床が進まなくなった。CTで肺野に異常を認めず、POSが疑われた。動脈血液ガス分析において、仰臥位ではpO2 76.8mmHg, pCO2 35.2mmHgであったが、座位45度にするとpO2が48.0mmHgまで低下し、頻呼吸となりpCO2 が31.0mmHgまで低下した。血液検査、胸部レントゲンに特記すべき所見を認めず、12誘導心電図は洞調律で心房性期外収縮を認めた。経胸壁心エコーで左室収縮能や形態に異常を認めなかったが、心房中隔瘤を認めた。経食道心エコー図検査で確認すると、通常の左側臥位では心房一次中隔の可動性を認めたが、半坐位では一次中隔が全周期にわたって左房側にせり出していた。左側臥位では左房側に中隔が偏位しているタイミングでのみ右左シャントを認めたのに対して、半坐位では全周期にわたって右左シャントを認め、座位時の低酸素血症の原因と考えられた。さらに詳細な解剖を確認するため、心臓CTを撮像した。通常の仰臥位での撮像に加え、SpO2が低下した半坐位での撮像も行って両者を比較したところ、上行大動脈が右室流入路に向かって大きく蛇行し、それが半坐位時に顕著となり、右室流入路をほぼ押しつぶしていることが確認された。我々は当初卵円孔閉鎖を検討していたが、閉鎖によって右房血流の停滞や循環不全を起こすことが危惧され、心臓カテーテル検査による血行動態の評価を行った。酸素飽和度を測定したところ、仰臥位での右左シャント率は23.6%であったが、患者を座位45度に起こした状態では30%まで増加した。卵円孔をバルーンで試験的に閉鎖し、患者を座位45度に起こして右房から心腔内造影を行ったところ、大動脈圧排によって狭くなった右室流入路を、造影剤は停滞することなく通過し、体血圧や右房右室同時圧はほとんど変化しなかった。外科的に卵円孔を閉鎖し、その後呼吸循環不全を呈することなく経過した。

本症例のPOSの病態は、臥位から座位への変換によって上行大動脈の右室流入路への変異、圧排増強が起こり、右室への血流制限や、心房中隔の変形がおこった結果、卵円孔を介した右左シャントの増強を来したと考えられた。右室への血流制限は、これまでのPOS症例で報告されていない機序であった。既報のPOSの病態として、右房圧の上昇、心房中隔の変形、IVC血流方向の変化などが指摘されているが、詳細な病態は症例によって異なり、複数の機序が関与していることもある。本症例のように複数のモダリティを用いて病態を把握することは重要であると考えられる。

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