情報・広報・啓発委員会より

第253回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2019年9月28日開催)

Student Award

地域一般住民におけるNT-proBNPと病型別脳梗塞、特にラクナ脳梗塞発症リスクとの関連:The Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS)

海老原賢治1)、山岸良匡2)、磯博康3)
1)筑波大学医学群医学類
2)筑波大学医学医療系社会健康医学
3)大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学

【背景】脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)が将来の脳梗塞発症と関連する可能性が示されているが、日本人の脳梗塞の約半数を占める穿通枝領域に生じるラクナ脳梗塞との関連を示した研究は、国内外を問わずない。本研究では、健診時の血清NT-proBNPとラクナ脳梗塞発症との関連を分析した。

【方法】CIRCSの秋田、茨城地区の2010~13年の健診受診者4253人を対象とした。健診時のNT-proBNP(pg/ml)を55未満、55-124、125-399、400以上の4群に分け、55未満を基準として性、年齢及び循環器危険因子を調整した多変量調整ハザード比(95%信頼区間)を算出した。

【結果】ラクナ脳梗塞の多変量調整ハザード比は55-124の群で0.88(0.21-3.67)、125-399の群で1.64(0.34-7.82)、400以上の群で6.80(1.11-41.6)であった(図の黒線)。心房細動有所見者を除外した場合も同様の結果であった(図の赤線)。

【結論】NT-proBNPの高値がラクナ脳梗塞の発症リスクと関連することが示された。

Resident Award

濃厚な家族歴を持つ若年者性大動脈解離の一例

木村 尚喜1)、池ノ内 孝2)、成田 岳2)、田村 洋平2)、矢野 弘崇2) 、新田 義一2) 、加藤 駿一2)
高野 寿一2)、村田 和也2)、羽田 泰晃2)、狩野 実希2)、高宮 智正2)、稲村 幸洋2)、根木 謙2)
大和 恒博2)、佐藤 明2)、 稲葉 理2) 、松村 穣2)
1)日本赤十字社 さいたま赤十字病院 初期研修医
2)日本赤十字社 さいたま赤十字病院 循環器内科

症例は36歳男性。父に腹部大動脈瘤、兄に急性大動脈解離の既往がある。事務仕事中に突如激しい背部痛を自覚し、その後も増悪傾向となったため救急要請を行い当院搬送された。造影CT検査で大動脈遠位弓部から左腎動脈上縁までの解離腔を認め、Stanford B型の偽腔開存型急性大動脈解離と診断した。腹腔動脈は偽腔より起始し、上腸間膜動脈にも解離が及び末梢では閉塞していたが、下腸間膜動脈からの側副血行により腸管虚血は認めなかった。その他の臓器障害もなく、降圧療法及び鎮痛による保存的加療を開始した。経過中に解離進行や臓器障害の出現はみられず、第19病日に自宅退院とした。

濃厚な血管病の家族歴及び若年性の急性大動脈解離発症から、Marfan症候群を含めた遺伝性大動脈疾患を想定し遺伝子検査を施行した。結果、TGFB3遺伝子にヘテロ接合体変異が検出され、Loeys-Dietz症候群5型(LDS5)の診断に至った。LDSは血管系、骨格系、頭蓋顔面系、結合組織所見の4つの主要臨床症状からなる常染色体優性遺伝の疾患である。本症例においては大動脈解離、漏斗胸、脊柱側彎症、眼間解離、横隔膜ヘルニアを罹患しており、すべての臨床像を満たしていた。新規の疾患故に統一された国際的診断基準は存在せず、現状では文献により診断基準は複数存在するが、今回はそのいずれも満たすことからLDS5と診断した。またLDSは遺伝子変異により6つのサブタイプに分類され、本症例は2015年に明らかになったばかりの5型に分類された。一般的にLDSはMarfan症候群や他の類縁結合織疾患と比較し、より若年発症で小さな血管径でも解離や破裂を発症することが知られているが、5型は他の変異と比べ表現型が軽度で無症状の報告も存在する。しかしLDS5はLDSの中でも報告例が極めて少数であり、詳細は未だ解明されていない。

患者には3人の男児がおり、疾患の遺伝が想定されるためすべての男児に心臓超音波検査を施行した。検査時にはいずれの男児でも異常を認めなかったが、LDS5は表現型が軽度であり発症を見逃される可能性があるため、小児科と連携して定期フォローの方針としている。

本症例のように濃厚な家族歴を認める場合は、積極的に遺伝性疾患の関与を鑑別に挙げる必要がある。またLDSは常染色体優性遺伝であるため、患者本人のみならずその子供の経過にも十分な配慮を要する疾患といえる。

Clinical Research Award

General PopulationにおけるMetabolically Healthy Obesityの頸動脈プラーク発生への影響

東京大学医学部循環器内科
金子 英弘、伊東 秀崇、桐山 皓行、吉田 由理子、中西 弘毅、水野 由子、大門 雅夫、森田 啓行、
小室 一成

メタボリックシンドロームと肥満は共に心臓血管病の重要な危険因子である。メタボリックシンドロームと肥満は高頻度に合併するが、近年、メタボリックシンドロームを合併しない肥満(Metabolically Healthy Obesity)の病態が注目されている。しかし、Metabolically Healthy Obesityの動脈硬化発生における意義は未だ明らかでない。本研究は、general populationにおけるMHOの初期動脈硬化への影響を明らかにすることを目的とした。東京大学医学部附属病院予防医学センターで人間ドックを受診した1,241名を対象に、肥満をBMI≥25.0 kg/m2とし、非肥満群(857名)、MHO群(214名)、肥満にメタボリックシンドロームを合併した(Metabolically Unhealthy Obesity; MUO)群(170名)の3群に分類した。頸動脈エコーで評価したIntima-media thickness≥1.1mm以上を頸動脈プラークと定義した。頸動脈プラークの有病率は非肥満群、MHO群、MUO群の順に上昇し(下図)、多変量解析を行ったところ、MHO及びMUOが頸動脈プラーク発生の独立した危険因子であることが示された。さらに、年齢、性別によるSubgroup解析でも、すべてのカテゴリーで同様の傾向が見られた。本研究において、肥満は人間ドック受診者の31%に認め、肥満症例のうち、56%がMHOに分類された。本邦のGeneral PopulationにおいてMHOは稀な病態ではないことが示唆される。非肥満群と比して、MUO群のみならずMHO群においても頸動脈プラークの発生率が上昇したことから、メタボリックシンドロームを合併しない場合でも、肥満そのものを動脈硬化の危険因子として考慮し、治療介入を検討することが重要である。本研究は、MHOがGeneral Populationにおける初期動脈硬化へ与える影響を検討した初の研究であり、予防循環器学において重要な研究結果となったと考えている。

Case Report Award

左鎖骨下動脈狭窄によるcoronary steal syndromeとマスクされた高血圧が心不全の原因と考えられた透析例

竹井 達郎、宮本 明、高木 友誠、丸山 高、久原 亮二、秋田 孝子、福田 正浩、袴田 尚弘、山内 靖隆
総合高津中央病院 心臓血管センター

症例は62男性 透析例。当院では重症下肢虚血肢で治療歴がある。4年前、他院で冠動脈バイパス術(左内胸動脈-左前下行枝/回旋枝・大伏在静脈-右冠動脈)・大動脈弁置換術が施行されている。以前はコントロール不良の高血圧を認めていたが1ヶ月前から血圧低下を指摘され、降圧薬は全て中止されていた。その頃から労作時呼吸苦や透析困難症を認め改善しないため当院へ紹介された。来院時、左上肢(非シャント側)の血圧は82/65mmHgと低値であった。呼吸音は清であったが、両足背に軽度浮腫を認めた。心電図は以前と著変なかったが胸部レントゲン写真では以前と比較して心拡大を認めた。心エコー検査で前壁中隔の新たなasynergy・左室駆出率の低下(41→23%)・推定右室圧の上昇を認めた。採血上でもBNPの異常高値を認めている。末梢動脈疾患・内胸動脈-左前下行枝バイパスの既往、前壁中隔の新たな壁運動異常から左鎖骨下動脈狭窄によるsubclavian coronary steal syndromeを疑いシャント肢である右上肢の血圧を測定した。結果、175/69mmHgであり、左右差は90mmHg以上認めた。ABIにて左上肢の圧波形の鈍化を認め、CTでは左内胸動脈より近位部の左鎖骨下動脈に石灰化を伴った高度狭窄を認めた。また椎骨動脈入口の狭窄が絡んだ分岐部病変でもあった。以上から心不全はcoronary stealによる心筋虚血・マスクされた高血圧によるものと判断し、原因である左鎖骨下動脈の狭窄に対してEVTを行う方針とした。冠動脈造影では左前下行枝の血流が内胸動脈へ向かう所見を認め、左鎖骨下動脈造影では既知の狭窄病変を認めた。心停止・脳梗塞のリスクのある治療であったが、最終的に左鎖骨下動脈・椎骨動脈方向にそれぞれステントを留置し良好な病変拡張、圧較差の消失を認めた。退院後、症状は改善し、1ヶ月後の心エコー検査では前壁中隔の壁運動・左室駆出率の改善を認めている。本疾患の診断の手がかりは両側の血圧測定である。透析患者ではシャント肢の血圧測定が躊躇され発見が遅れる可能性がある。しかし透析患者こそ本疾患の報告が多く重症化しやすいことが報告されている。当院で施行した過去の研究では末梢動脈疾患を有する透析患者において鎖骨下動脈狭窄はある一定数認められ、そのスクリーニングであるABI測定でシャントが閉塞した患者は認めなかった。以上より透析患者でも、特に内胸動脈グラフトを有する患者は躊躇せず定期的に血圧の左右差を確認することが肝要であると考えた。

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