情報・広報・啓発委員会より

第252回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2019年6月15日開催)

Student Award

SNSを活用した心電図学習法の確立 -医学部3年生が心電図検定に合格するまで-

大山一慶1)、米山喜平2)、黄世捷2)、石橋祐記2)、宮崎秀和2)、樋熊拓未2)、原田智雄2)、明石嘉浩2)
1)聖マリアンナ医科大学医学部医学科4年
2)聖マリアンナ医科大学病院 循環器内科

心電図読影は医師にとって必須の基礎臨床能力であるが、ワークショップや集団講義に比べ個人学習による習得は困難であると報告されている。そこで我々はSNSを用いた個人学習支援を取り入れ、医学部の3年生11名が心電図検定3級(対象レベル:一般臨床医、循環器勤務メディカルプロフェッショナル)に臨み、全員が合格に至ったため、その経過と取り組みを報告した。

【方法】
循環器内科医師による2ヶ月(週1日60分を9回)の心電図の基礎レクチャーを経て、1ヶ月間SNSを用いた心電図の個人学習を実施した。個人学習は、Facebook内に設けられた非公開グループ(グループ名:Marianna Advanced & Communicative ECG interpretation)にて行われた。あらかじめ匿名化された心電図を配布し、学生1日1症例を目標に心電図の画像とともに所見を投稿、循環器内科医がフィードバックを行った。

【結果】
検定前の37日間において、SNS上には合計452枚の心電図投稿(関連画像含む)とフィードバックあわせて、計1,054件の投稿があった(講師:455件、学生:599件)。心電図検定3級に11名全員合格、1名成績優秀者(合格者1,654名中9名)の選出となった。

【考察】
心電図の判読力を上達させるためのプロセスとは、①自らが心電図を読み、②所見案を講師に伝え、③フィードバックを受ける、という実践に即した3ステップをどれだけ多く反復するかにかかっていると考えられる。ただし、このプロセスをワークショップや集団講義で実行するには、講師の時間的空間的負担が大きく、臨床業務と並行して教育を継続することは難しい。このような背景から、心電図学習は従来の集団講義による基礎的事項のインプットが主流となっていると考えた。
SNS学習法は、このような課題を解決し得る可能性を持っている。講師はPCやスマートフォンを用いることで、従来の対面教育により生じていた時間的空間的な制約なく、フィードバックが可能である。さらに、SNS上に複数の講師が参加することによって、負荷が特定の講師に偏ることなく、医局全体でサポートすることが可能となった。
一方、学生においては、心電図検定合格という明確かつチャレンジングな目標を設定することにより、高いモチベーションを保ちながら学習に取り組むことが可能となる。そしてSNSを通じて数多くの症例にふれた学生は、心電図の判読に自信がつき、循環器の研修や実習により能動的に参加することが期待できる。このように、①心電図検定合格という目標を掲げ、②循環器内科医局によるサポートの下、③SNSという新たなツールを活用することによって、心電図学習は従来の方法では得られない成果を得られる可能性がある。

Resident Award

Clinical Research Award

ヒス束ペーシング困難症例に対する左脚ペーシングの検討

荷見映理子、藤生克仁、福馬伸章、松原巧、松田淳、大島司、吉田由里子、嵯峨亜希子、小栗岳、
小島敏弥、赤澤宏、小室一成

キーワード:左脚ペーシング、ヒス束ペーシング、心臓再同期療法

ヒス束ペーシング(HBP)は心室収縮の同期性保持、非同期性の是正が可能であるが、ヒス束下での房室ブロックでの低成功率が問題である。我々はより下部で刺激伝導路を直接刺激する左脚ペーシング(left bundle pacing: LBP)を本邦で初めて成功させ、低出力でかつ左脚ブロックによる伝導遅延も是正できる手技を確立した。

連続する房室ブロック患者に対してHBPを試み、64%が植込みに成功したが、36%が不成功であった。HBP不成功例のうち引き続きLBPに移行して行った症例のうち、LBP成功率は81%であった。LBPによりペーシング波形はnarrow QRS(108 ± 4.2 ms)を維持することができた。特に、左脚ブロックを有する4例では151 ± 4 ms からペーシングにより122 ± 6.7 msと有意なQRS短縮を認めた(p =0.01)。また、LBP患者では心・血管損傷、三尖弁損傷、ventricular capture lossなどの合併症は認めず、LBPはHBP困難症例に対し安全で有効な手段であると考えられた。

Case Report Award

難治性水疱症を契機に不整脈原性右室心筋症の診断に至った一例

佐藤 貴範1)、岩花 東吾1)、岡田 将1)、松岡 悠美2)、小林 欣夫1)
1)千葉大学医学部附属病院 循環器内科
2)千葉大学医学部附属病院 皮膚科

不整脈原性右室心筋症(ARVC)はデスモゾーム関連遺伝子の異常が主因となる。本遺伝子異常は心臓と皮膚に病変を来しうるが、両表現形を遺伝性に示す症例は欧米の特定地域を除き稀である。

症例は49歳男性。水疱および心不全の家族歴がある。20代より消退を繰り返す難治性水疱に対し当院皮膚科で精査した結果、天疱瘡・膠原病などは否定的であり、先天性表皮水疱症と診断された。同時期から心陰影拡大やBNP上昇を伴う全身倦怠感・下腿浮腫が出現し、心不全の診断で当科へ入院した。高度な左室収縮能低下に加え、著明な右室の著明な拡大と収縮低下を認めたが、利尿薬投与で心不全は安定した。水疱は全身性に認め、びらん・紅斑、色素沈着を来した。心電図上のε波や平均加算心電図の遅延電位陽性、及びCT・MRIや心筋生検での右室心筋線維化・脂肪浸潤所見から左室波及型ARVCの確診に至り、心不全改善後にICD植込み術を行い退院した。

ARVCと関連する遺伝子異常は多数知られているが、特に細胞間接着を担うデスモゾームの異常が数多く報告されている。その中でも実際皮膚病変を合併する疾患はNaxos病とCarvajal症候群が知られている。両者とも常染色体劣性遺伝を示し、掌蹠角化、woolly hairとARVCを認める。これらは心臓と皮膚両方に病変を来すことからCardiocutaneous Syndromesと呼ばれる。一方、先天性表皮水疱症においても、原因遺伝子が報告されているが、本症例には典型的な遺伝子異常は認めなかった。

本症例は家族性の水疱性病変を伴うARVCであるが、既知の疾患や遺伝子変異は認めず、また先天性表皮水疱症に関しても既知の遺伝子変異はなく、本邦初の新規のCardiocutaneous Syndromes症例と考えられた。今後家族の遺伝子情報も含め遺伝子探索を継続していきたい。

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