第249回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2018年9月22日開催)
Student Award
成人心房中隔欠損症の術後左心不全の発症予測
田邉好秀1)、石津智子2)、星智也3)、瀬尾由広3)、家田真樹3)
1)筑波大学 医学類6年
2)筑波大学医学医療系 臨床検査医学
3)筑波大学医学医療系 循環器内科
心房中隔欠損症(ASD)の閉鎖術後、左心不全が出現し治療に難渋した高齢症例(図左上)を経験し、同様の治療群の解析から術前に左心不全の予測ができないかと考えた。
【方法】対象はASD治療を行った成人22症例。術後一ヶ月後心エコーE/e’を左房圧の指標とし、術前規定因子を解析した。
【結果】対象者の年齢は54±20歳、ASD径は20±6mm。術後E/e’は8以下、15以上それぞれ3名であった。術後E/e’の規定因子としてASDサイズは有意ではなかったが、年齢(r=049, p=0.02),三尖弁逆流血流圧較差TRPG(r=0.50、p=0.018)、術前NYHA分類(p=0.041)が有意であった(図右上左下)。
【考察】ASD患者では左室容積が減少しているにも関わらず、拡張末期圧が高値である傾向があるが。小児患者では治療後に拡張末期圧容積関係は上方から下方に移動すると報告されている。一方高齢患者では、加齢により左室スティフネスが上昇しておりASD閉鎖による容積増加に伴い著明に拡張気圧が上昇する場合があると推察される。(図右下)
【結語】術前から症状を有する右室圧高値の高齢ASD患者では術後に左心不全が顕在化しやすいと考えられる。
Resident Award
当院における大動脈二尖弁に対するバルーン拡張型人工弁を用いた経カテーテル的大動脈弁置換術の経験
梅澤 早織1),2)、上嶋 亮1)、出雲 昌樹1)、奥山 和明1)、石橋 祐記1)、田辺 康宏1)、
原田 智雄1)、明石 嘉浩1)
1)聖マリアンナ医科大学循環器内科
2)聖マリアンナ医科大学 初期臨床研修センター
経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)は高齢者の大動脈弁狭窄症(AS)に対する治療として普及し、その適応は拡大しつつある。現在は二尖弁ASに対してもTAVIが施行可能となり、2018年9月時点で当院でのTAVI施行例は254例中9例(3.5%)が二尖弁ASであった。
大動脈二尖弁の解剖学的分類として最も一般的に用いられているSiverse分類はRapheの数による二尖弁分類であり、当院における9例の内訳はType0:3例、Type1:6例であった。先行研究において、二尖弁と通常の三尖弁では術後の人工弁拡張様式に差があり、二尖弁の場合には三尖弁と比較し人工弁の拡張率が低いことが知られているが、二尖弁のType別に人工弁の拡張様式を検討した報告はこれまでにない。今回我々はそこで今回我々は、二尖弁ASに対してバルーン拡張型人工弁を用いてTAVIを施行した症例の、術後人工弁形態及び機能をType別に評価、検討した。
結果、年齢や性別、術前の弁輪面積および弁口面積、圧較差、石灰化スコア、左室機能等はType0とType1で有意な差は認めなかった。一方でType1ではType0と比較し術後人工弁の楕円率、拡張率、有効弁口面積が有意に小さく、Ⅱ度以上の弁周囲逆流残存率が有意に高かった。これは、図に示す通り高度に石灰化したRapheに人工弁の拡張が制限されたために生じたものと考察された。
今回の検討においてTAVIを施行した二尖弁AS症例9例は全て合併症なく治療を完遂し、以降最長約1年半のフォローアップの中で心血管イベント発症例はなく、中短期予後は良好であるが、今後の長期間のフォローアップの過程では人工弁のdurabilityに差異を生じる可能性もあるため慎重なフォローアップが必要と考えられた。
TAVIは高齢の二尖弁ASに対して有用な治療選択肢となり得るが、Type別の人工弁機能が異なるため、二尖弁AS症例の治療戦略決定には二尖弁のType診断が重要である可能性が示唆された。
Clinical Research Award
大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁置換術の費用対効果分析
小寺 聡、清末 有宏、安東 治郎、森田 啓行、赤澤 宏、小室 一成
(東京大学 医学部 附属病院 循環器内科)
【背景】医療費は年々増加し、2016年度の国民医療費は42兆円にまで達している。医療費を効率的に活用するため、2019年度より診療報酬改定に費用対効果の観点を導入することが決まっている。経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)弁が450万円と高価であるため、費用対効果評価の試験的導入品目に選定され、2017年度から検討されている。TAVIを施行している医師として費用対効果に興味を持ち、分析を行った。
【方法】大動脈弁狭窄症(AS)患者に対するTAVIの費用対効果を、手術不能例(STS score 11%)では薬物治療と比較し、手術可能例(STS score 6%)では外科手術と比較した。解析モデルを作成し、TAVI、薬物治療、外科的大動脈弁置換術(SAVR)の費用と質調整生存年(QALY)を推定し、増分費用対効果(ICER)を算出した。ガイドラインに従い、費用対効果の閾値を1QALYあたり500万円と仮定し、幅広い感度分析を行った。解析モデルでは、重症ASの患者が安定している場合もあれば、入院する場合も死亡する場合もあると仮定した。観察期間は10年とし、それぞれのイベント発生率、手術の費用やASのQOLは、先行文献をもとにモデルに使用した。
【結果】シュミュレーション結果の分布図を図A、Bに示す。図Aが手術不能例、図Bが手術可能例である。横軸がQALY、縦軸が費用である。図Aの手術不能例では、全体に費用が0よりも上にあり、QALYも右にある。TAVIは薬物治療と比較して、費用が高く、獲得QALYも大きいことを示している。10年間の費用は薬物治療で164万円、TAVIで801万円、QALYは薬物治療で1.27 QALY、TAVIで3.02 QALYで、ICERは392万円/QALYであった。手術不能例では薬物治療と比較したTAVIのICERは500万円を下回っており、費用対効果が良好であった。一方で図Bの手術可能例は費用が0よりも若干上にあり、QALYは0周辺に分布しており、TAVIはSAVRと比較して、費用は若干高く、獲得QALYはあまり変わらないことを示している。10年間の費用はSAVRで632万円、TAVIで804万円、QALYはSAVRで4.59QALY、TAVIで4.81QALYで、ICER 752万円/QALYであった。手術可能例でSAVRと比較したTAVIのICERは500万円を超えており、費用対効果が良好ではなかった。
【結論】TAVIは薬物治療と比較して費用対効果が良好である者の、SAVRと比較すると費用対効果が良好ではなかった。
Case Report Award
高度狭窄を呈する大動脈弁嚢胞変性に、GH/PRL(プロラクチン)産性下垂体腫瘍の関与が疑われた症例
武城 千恵、都島 健介、武田 憲彦、波多野 将、森田 啓行、赤澤 宏、縄田 寛、小野 稔、
小室 一成(東京大学医学部附属病院)
46歳女性、心疾患精査目的に入院。3歳時に心雑音を指摘、26歳・27歳時に帝王切開で出産。出産前には心臓超音波検査で出産可能と判断された。46歳時に肉眼的血尿で近医受診時の心エコーにて大動脈4尖弁、大動脈弁上構造物による狭窄、著明な左室肥大、冠動脈拡張、左室心尖部瘤などを認め、精査目的に当院当科紹介。自覚症状は認めず、収縮期駆出性雑音の他に、鼻翼の拡大や口唇・手指の肥大など特徴的な所見を認め、BNPは467.6pg/mlと軽度上昇していた。TEEでは大動脈弁はほぼ同サイズのcuspからなる4尖弁であり、左室から大動脈の間に嚢胞様の構造物を認め、最大圧格差152mmHgの開放制限を認めた。CTでもcuspが嚢胞様に接し中央の空間が著しく狭小化していた。また特徴的な顔貌や頭部CT/MRIで下垂体腫瘍を認め、採血結果も含め、下垂体腺腫による末端肥大症・プロラクチノーマと診断。26歳で出産し35歳で閉経していることから、下垂体腺腫・大動脈弁の構造変化は共にその後起きてきていると考えられた。その後大動脈弁置換術、左室流出路心筋切除術、大動脈パッチ形成術を施行。弁腹の石灰化はほぼ認めず、病理では広範囲に粘液腫様の基質の産性を認めた。
大動脈4尖弁は非常に稀な疾患で、40歳頃から弁機能不全をきたすことが多いと言われている。acromegalyに弁膜症が合併する頻度は稀だが、粘液腫様変化や弁尖の線維化・肥厚をきたすことが言われており、本症例と同様の病理所見と考えられた。また大動脈弁上狭窄という先天性心疾患の1つでは、過去にLCCの先端からfibrous bandが発生しST junctionに接着したという症例報告がなされている。
以上より本症例では、3歳時に心雑音があることや大動脈弁上狭窄症例では弁尖と弁の接着報告があることから、先天性に大動脈弁上狭窄の合併があり、acromegalyにより弁上狭窄と弁尖が接着した可能性が1つ目として考えられた。しかし出産時に有意狭窄をきたしておらず、また大動脈4尖弁と大動脈弁上狭窄はともに非常に稀な疾患で合併報告がないことから、2つ目として大動脈弁上狭窄の合併はなく、弁尖が延長しST junctionに接着した可能性が考えられた。
大動脈4尖弁に下垂体腺腫によるacromegalyを合併し、それにより大動脈弁の構造変化・高度狭窄を来したと考えられた症例を経験した。大動脈4尖弁にacromegalyを合併した症例報告は過去になく、大動脈4尖弁もacromegalyによる弁膜症も通常は逆流症の頻度が多いが、嚢胞様変性をきたすことで狭窄をきたすこともあるため慎重な経過フォローが必要と考えた。