情報・広報・啓発委員会より

第248回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2018年6月9日開催)

Student Award

漏斗胸由来の右下肺静脈狭窄を示す35歳女性:漏斗胸重症度と心臓圧排、臨床所見との関連、36例での検討

千葉大学医学部5年 小山玄太郎、船橋伸禎、堀越琢郎、和田七海、髙岡浩之、宮内秀行、藤本善英、
宇野隆、松宮護郎、小林欣夫(千葉大学)

[症例検討]

【背景】漏斗胸は、複数の先天的因子で発症し、心臓を機械的に圧迫することがある。通常は心臓の前面にある右室や右房が圧迫されるが、まれに左房や肺静脈を圧迫することがあり、肺静脈が圧排されれば部分的な肺静脈うっ血を起こす可能性がある。

【症例】35歳女性。2歳時、川崎病で左内胸動脈を左前下行枝に、大伏在静脈を高位側壁枝に冠動脈バイパス術を施行した。以後無検査であった。3か月前より労作時胸痛を訴え、心臓CTを施行。漏斗胸により右房、右下肺静脈のみに狭窄が観察された。

CTで両グラフトは開存していたが、左前下行枝と右冠動脈が高度石灰化のため評価困難であった。胸部レントゲン上での非対称性の下肺静脈径の拡大や部分的な肺うっ血は無かった。侵襲的冠動脈造影では左前下行枝と右冠動脈の石灰化部位に有意狭窄が確認された。右心カテーテルでは右心系圧上昇は観察されなかった。4本のうちの右下肺静脈のみの狭窄では肺高血圧は生じなかった可能性がある。運動負荷SPECTでは虚血が陰性であり、経過観察とした。今後は息切れなどの症状、経胸壁心臓超音波を用いた肺高血圧所見の有無を留意していく予定。

【漏斗胸36例での検討】本症例経験より当院で単純CTを施行した、外科手術前の漏斗胸症例における漏斗胸の重症度(Haller index)とCT画像上の機械的心臓圧排、心電図との関連を解析した。
漏斗胸では、Haller indexと右房の圧排の程度は関連があるが、左房の圧排の程度に有意な関連はなかった。漏斗胸では、心電図上でV1誘導の陰性P波、不完全右脚ブロック、洞性不整脈、右軸偏位が高頻度に観察された。前二者のHaller indexは、同所見が無い群より有意に大であり、Haller indexが高いと、V1誘導の陰性P波が深い傾向があった。
漏斗胸は心臓圧排と関連があるが、その程度は異なり、実際の読影経験から、理由の1つと して胸の凹んでいる体軸における高さの位置の差などを考えた。

Resident Award

セリプロロール投与中に多発性中小動脈瘤・解離が進行し治療に難渋した血管型エーラスダンロス症候群の一例

朴 文英1)、篠原 宏樹1)、小島 敏弥1)、中山 幸輝1)、武田 憲文1)、赤澤 宏1)、森田 啓行1)
小室 一成1)、山内 治雄2)、須原 正光3)
1)東京大学医学部附属病院 循環器内科
2)東京大学医学部附属病院 心臓外科
3)東京大学医学部附属病院 血管外科

血管型エーラスダンロス症候群(vEDS)は、COL3A1遺伝子異常を背景とした遺伝性疾患である。III型コラーゲン産生異常による結合組織脆弱性関連症状を有し、突然発症の動脈破裂・腸管破裂、妊娠中の子宮破裂や薄く透けた皮膚、繰り返す血気胸などを特徴とする。vEDSは40歳までに大イベントを生じることが多く予後不良であり、血管損傷を避けることが重要と考えられている。また、Ongらよりセリプロロールによる血管イベント発症抑制効果が報告されており、多くの症例で使用されている。今回、vEDS診断後セリプロロール内服をしていたにも関わらず中動脈解離を発症し、治療に難渋した症例を経験した。

症例は31歳男性。動脈解離の濃厚な家族歴を有し、28歳時に右鎖骨下動脈瘤を指摘された。破裂の危険性が高いことから右鎖骨下動脈置換術を施行したが、手術翌日にグラフト閉塞を来し、再手術を要した。同時期に兄が冠動脈解離を発症しており、遺伝子解析の結果、COL3A1遺伝子異常に伴うvEDSと診断した。診断後セリプロロール(200mg/日)内服を開始し経過観察としていた。セリプロロール内服下に背部痛を自覚し、当院救急外来を受診した。精査の結果、腹腔動脈~脾動脈解離、膵周囲後腹膜出血と診断した。vEDSにおいて血管内治療を含む侵襲的加療については危険性が示唆されており、保存的加療を行った。経静脈的持続降圧とセリプロロールの増量(800mg/日)としたものの、新規に左内頚動脈解離、腹部中小動脈解離を発症し治療に難渋した。当初目標血圧を収縮期血圧(sBP)120mmHgとしていたが、病状増悪から、目標血圧をsBP100mmHgとし、さらに降圧を強化した。セリプロロール増量にてsBP100mmHgを達成したにもかかわらず、中動脈解離は進行した。原因として急性期の心拍数コントロールが不十分であることと考え、セリプロロールをビソプロロールへと変更し、血圧および心拍数、すなわちダブルプロダクトの減少を図ったところ、良好に経過し、第29病日に退院した。現在も外来管理にてイベントなく経過している。

保存的加療で重篤な転帰を回避しえたvEDSの一例を経験した。可能な限りの降圧が基本となるが、特に急性期では、血圧だけでなく心拍数も含めたダブルプロダクトに対しての厳密なコントロールが大きく寄与しており、重要であると考えられた。

Clinical Research Award

各種抗凝固療法における血管損傷時の凝固系の反応の検討

大槻 総、和泉 大輔、須田 将吉、佐藤 光希、長谷川 祐紀、八木原 伸江、飯嶋 賢一、
池主 雅臣、南野 徹(新潟大学医歯学総合病院 循環器内科)

直接型経口抗凝固薬(DOAC)治療における血管損傷時の凝固系の反応は不明である。本研究は、peak・trough濃度時と血管侵襲前後で、各DOACとワルファリン(VKA)の凝固系に対する作用を比較検討し、DOAC治療におけるトラフ期の抗凝固作用の程度、血管損傷時の凝固反応の程度を明らかにすることを目的とした。Ablation予定の抗凝固薬服用55例と非服用18例(対照群)を登録し、DOACのpeak・trough期、血管穿刺後に凝固指標を検討した。

各DOAC群のprothrombin fragment(F1+2)はtrough・peak期で同等で、対照群より低値、VKA群より高値だった。穿刺後、各DOAC群のF1+2はVKA群と異なり対照と同等まで増加し、増加量はdabigatran群でVKA・apixaban群より大きかった。プロテインC(PC)・プロテインS(PS)はdabigatran群で高値、アンチトロンビン(AT)はapixaban群で高値であった。穿刺後PCはDOAC・対照群で減少、PSはapixaban・dabigatran群で減少し、VKA群では変化がなかった。第Ⅶ因子はVKA群で低値であり、穿刺後、各DOAC群・対照群で減少し、VKA群では変化がなかった。

VKAに比べてDOAC治療では血管損傷時に正常な止血反応が保たれていた。DOAC治療は、ピーク期・トラフ期で凝固反応を同等に抑制し、その作用はVKAに比べて中等度の抑制であった。血管損傷時のトロンビン産生と止血反応は、トロンビン阻害薬服用例でXa因子阻害薬やVKA服用例より大きかった。

トロンビン阻害薬はPCとPSを増加させ、一部のXa因子阻害薬はATを増加させる可能性がある。生理的凝固抑制因子はDOACにより維持または増加し、脳梗塞の予防に関与している可能性がある。DOAC服用例では血管損傷時に凝固因子、生理的凝固抑制因子の反応性がVKAに比べて高く、生理的な止血反応と、過凝固を抑える生理的な凝固抑制反応が維持されていることが示唆される。

VKAに比べDOACは血管損傷時にトロンビン産生能を保持し、生理的凝固阻止因子は抑制していた。これらの差異がDOACの臨床転機の優位性に寄与していると考えられる。

Case Report Award

冠静脈洞および右室心筋に疣贅を認めた感染性心内膜炎の一例

佐藤 雅史1)、原田 顕治1)、大場 祐輔1)、渡部 智紀1)、石山 裕介1)、小形 幸代1)、相澤 啓2)、苅尾 七臣1)
1)自治医科大学 内科学講座 循環器内科学部門
2)自治医科大学 外科学講座 心臓血管外科部門

【症例】37歳,女性.【症例】発熱.【現病歴】1週間持続する発熱で近医入院となり,尿路感染症の疑いで抗菌薬治療が開始された.未治療の糖尿病(HbA1c 11.3%)を有していた.3回の失神を来たし,心電図で完全房室ブロックと促進型接合部調律を認め,総合病院へ転院した.経胸壁心臓超音波検査で右房及び右室に20mm大の疣贅と心嚢液貯留を認め,刺激伝導系への炎症波及も疑われた.感染性心内膜炎に準じた抗菌薬治療が開始され,血液培養ではメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が検出された.入院14日目に集学的治療目的に当院転院した.転院時の心電図ではⅠ度房室ブロックを認め,房室伝導は改善傾向にあった.経食道心臓超音波検査では冠静脈洞入口部に可動性を有する25x6mm大の棍棒状の疣贅を認めた.また,三尖弁中隔尖直下の右室心筋に付着する17x8mm大の疣贅を認めた.三尖弁には疣贅や弁逆流はなく,弁輪部膿瘍も認めなかった.右室後面房室間溝周囲はエコー輝度が高く浮腫状であり炎症の波及が疑われた.造影CTや全脳MRIでは明らかな膿瘍形成は認めなかった.メチシリン感受性黄色ブドウ球菌による冠動脈洞および右室心筋の感染性心内膜炎と診断した.入院28日目に疣贅切除術及び心膜剥離術を施行し,冠静脈洞入口部から1cm大の疣贅,三尖弁中隔尖直下右室心筋から1.5cm大の疣贅を切除した.疣贅付着部位に一致して冠静脈洞入口部辺縁に炎症所見を認めたが,房室間溝や弁輪部に明らかな膿瘍は認めなかった.右室前面に炎症による心外膜肥厚を認め剥皮術を追加した.術後は抗菌薬治療を継続し,入院61日目に独歩退院した.感染性心内膜炎において,冠静脈洞から起始する疣贅は稀であり,冠静脈洞入口部に疣贅が付着した原因や一過性完全房室ブロック合併の機序に関して解剖学的考察を加え報告した.

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