会長挨拶

謹啓
 このたび2024年8月31日、9月1日の両日、東京都千代田区紀尾井町の上智大学四谷キャンパスで、第36回日本脳死・脳蘇生学会総会・学術集会を開催させて戴く運びとなりました。本学会は1988年に第1回の学術集会が開催されて以来、36年余の歴史を重ねて参りましたが、今回初めて脳神経内科医として主催させて戴くこととなりました。開催にあたっては、脳死をはじめとする生命倫理の諸課題に取り組み、私も客員所員を務める上智大学生命倫理研究所の浅見昇吾先生(上智大学 外国語学部教授、実践宗教学研究科死生学専攻教授、生命倫理研究所長)にご協力を賜りつつ準備を進めて参りました(上智大学生命倫理研究所共催)。

わが国における法的脳死判定をめぐる議論と実際は、国際的にみて次の著しい特徴を有しています;
  1. いわゆる竹内基準に基づく「法的脳死判定マニュアル」では前提条件、除外例などが厳密に記載され、脳波も必須とされるなど、諸外国と比べて最も厳しいレベルの基準であること、
  2. 臓器移植を前提とする時のみ脳死をもって人の死と定義し、臓器移植を前提としない時はたとえ脳死状態と診断されても、従来通り心臓死をもって死とするという、2通りの判定基準の存在、
  3. フランスから初の脳死相当臨床報告が行われた1959年以降、現在に至るまで米欧の脳死をめぐる議論の中心は脳神経内科医であるが、わが国では脳神経外科医、のち救急・集中治療医。
一方、法的脳死判定、臓器(組織細胞)提供をめぐる国内外の主要な動向は次の2点です;
  1. 2009年に改正臓器移植法案が成立し臓器提供件数は増加したが、まだ不十分であり、さまざまな施策、シミュレーション教育が行われている。教育の中核の一つは神経所見の評価であり、従って脳神経内科医への期待、プレゼンスが大きく高まっている。
  2. 2020年のThe World Brain Death Projectによる脳死判定国際標準化に向けたコンセンサス推奨、2023年の米国の脳死(BD/DNC)判定ガイドライン改訂版では、ともに標準化のための用語統一、脳死判定基準の推奨が明記されたが、とくに BD/DNC判定は臨床診断であり補助診断(脳波検査を含む)は特別な状況でのみ適応されること、BD/DNC判定は最低1回で可とされた。
神経救急・集中治療を必要とする重症患者の治療は国際的に著しい発展を遂げており、わが国でも日本蘇生協議会(JRC)、日本集中治療医学会による診療ガイドラインが策定されつつあり、神経救急・集中治療医学・医療の領域において本学会の担うべき役割は一層大きなものとなっています。これらを踏まえて学会のテーマを「脳死・脳蘇生、神経救急・集中治療をめぐる国内外の最新動向と今後の方向性」とし、海外招聘講演ほかの主要講演、座談会ほかのさまざまな先端的、国際的、学際的プログラムを企画致しました。初日8月31日夕には細やかな懇親会を予定しております。神経救急・集中治療、脳神経疾患診療に携わる医師、学際的領域の先生方は勿論、臨床研修医、看護師、薬剤師ほかあらゆるメディカル・スタッフ、学生の皆様とお会いできるのを楽しみにお待ちしております。

謹白

2024年4月吉日

第36回日本脳死・脳蘇生学会総会・学術集会
上智大学生命倫理研究所共催シンポジウム
会長 永山 正雄
国際医療福祉大学成田病院/医学部本院・教授;脳神経内科学、予防医学
上智大学生命倫理研究所客員所員